やる気を出させる「栄養ドリンク的なビジネス書」ではなく、身も蓋もなく「やり方」を提供する、人生のハウツー本『物語思考』。「ハウツー」で救われてきたけんすう(古川健介)さんが、「やりたいこと」が見つからなくて悩む人のために書いた本書より、序文「本書の使い方」を公開します。
世の中のことはだいたいハウツーどおり
「やりたいことが見つからない」といって悩んでいる人がとても多いと感じます。特に若い人たちは、やりたいことを探すことに一生懸命に見えます。
そもそも、なぜ「やりたいこと」を追い求めてしまうのでしょうか?
それは、おそらく「やりたいことを見つけて、まわりの目を気にせず、ごちゃごちゃ考えることなく、夢中になってそれに人生を懸けたい」という理想があるからだと思います。
逆に「お金がほしい!」とか「いい車に乗って、いい時計をつけてモテたい!」という人は最近は少ないんです。とにかく「夢に向かって全力で人生を生きたい!」というニーズのほうが強いんですね。平和で豊かな社会でよかったです。
ぼくはインターネットでよく発信をしていることから、そういった悩み相談を受けることが多いのですが、そういう人へのアドバイスとして、このようなことをよく言っていました。
「泳ぐ前に泳ぐのが好きかどうかはわからないですよね? 一度泳いでみたほうがいい。それと同じで、興味がありそうなものをとりあえずやってみたらどうですか?」と。
これはビジネス書とかでよく見る「まずは行動してみたら」系の提案です。しかし、こういうアドバイスを聞いた多くの人は、「そうか!」となって一瞬やる気が出るんですが、しばらくすると「不安で行動できない」という悩みが出てきます。
じゃあ、どうすればいいか……と考えたのですが、まず、その「不安」の種類としては、次の3つがあるのだと思いました。
1つ目は「人から変に思われるんじゃないか」「やってみたけど、自分に合わなくてすぐあきらめたりしたら、バカにされるんじゃないか」「うまくいかなかったら恥ずかしいんじゃないか」といった「人の目が気になる系」です。
2つ目は「食いっぱぐれたらどうしよう」「将来それでお金が稼げずに貧乏になったらどうしよう」のような「将来が不安系」です。
3つ目は「変化するのが怖い」という「現状維持したい系」です。
逆に言うと、これらの不安を乗り越えて行動できれば解決するんじゃないかと思ったので、その答えを提示するためにこの本を書き始めました。
多くのビジネス書は使い勝手が悪い
世の中には、「やりたいことを見つけたい」という人向けの本はたくさんあります。
そして、その多くが「好きなものを見つけろ!」「夢中になれ!」「リスクを恐れずに行動せよ!」みたいな感じだったりしますよね。そういう本を読んで「よし、やるぞ!」と思うのは数日くらいで、すぐに元の生活に戻ってしまう人も多いと思うんです。
そういうビジネス書やノウハウ本は、一時的にはテンションが上がるので「栄養ドリンク」のような感じで使うにはいいと思います。でも、長期的な視点で見ると、いまいち使い勝手が悪いのです。
本書はそういう「やりたいことを見つけろと言われても、見つけ方がわからない」という人や「行動しろと言われてもできない」という人を対象にしています。
どうやればいいかわからない人への「マニュアル本」であり、身も蓋もなく「やり方」を提供する本です。なので、精神論などはほとんどありません。
「ぼくはこうやるといいと思いますよ」という、ただのハウツーです。栄養ドリンク的なビジネス書のように、やる気が出たり、救われた気持ちになったりする効果は皆無です。説明書を読んでもテンションが上がらないのと一緒ですね。
なので、すでに夢を見つけている人や、ガンガン行動できる人にとっては、死ぬほど回りくどい本だと思います。
ぼくも動けない人間だった
申し遅れましたが、ぼくは「アル」というクリエイティブ系のインターネット会社をやっている古川健介と申します。インターネット上では「けんすう」という名前で活動しています。
なぜぼくが「やりたいことを見つけられない」「行動できない」人に向けて本を書いているのかというと、ぼく自身がまったくそのとおりの人間だったからです。
ぼくは小学校の頃から、勉強はできない、運動はぜんぜんダメ、美術や音楽もかなり成績が悪い、と基本的に「何をやらせてもダメ」なタイプでした。性格も明るくないし、社交性もなく、将来がとても不安な子でした。
高校生になって、さすがに自分でもこのままで大丈夫かな……という気になったので「よし、正社員を目指そう」となんとなく目標を立てました。大きな夢なんてなかったのですが、「とりあえず大学に行って、就職をすればなんとかなるだろう」くらいの感覚です。
勉強はできなかったので、とりあえず予備校に行きました。そこでの体験が、結構強烈だったんです。
いつも勉強を教わっていた学校の先生は、「学問とは何か」についてとうとうと語ったり「将来役立つから勉強することは大事だ」と言ったりする人ばかりだったので、そういうものだと思っていたのですが……。
予備校の先生は、「とにかく受験で点数をとって合格すればいい。だから、点数をとれるマニュアルを教えます」という感じだったんです。
それまでぼくは、勉強は「その学問の本質」とか「学ぶことのすばらしさ」などを知らないといけないと思っていました。でも、予備校は「大学に受かるために、点数をとるだけ」という身も蓋もないやり方を提供してくれたんです。それがぼくには、とても心地よかったんです。
そして、そのとおりにやってみると、悪かった成績もみるみる上がっていきました。古文では「この助詞があった場合は主語が変わる」とか、英語だと「主語と補語は当然イコールだ。ということは、構造が似ている場所をチェックすれば、言い換えている内容がわかる」といった、点数をとるための「ハウツー」を学んだおかげです。
そこから「そうか、世の中のことはだいたいハウツーどおりにいけば大丈夫だな!」と考えるようになりました。
結局、現役では志望校に受からなかったので浪人したのですが、そのときも「とにかく受験に合格するための情報を集めれば勝ちだな」と思っていたので、勉強するよりも先に、大学受験生用のコミュニティサイトを作りました。当時は、受験情報なんてネット上にほとんどなかったので、受験のノウハウをユーザー投稿できる仕組みを作ってみたのです。
ニーズがあったのか、そのサイトは1日に5000件以上投稿があるサービスに成長しました。そして、そこでの情報をもとに、大学受験では私大最難関の第一志望校に合格できました。
社会人になってからもノウハウ本を読みまくり、仕事力をつけていったのですが、そのハウツー熱はとどまるところを知らず、2009年には「ハウツーを作る」というコンセプトの会社を立ち上げました。
その会社で作ったサービスは、ピーク時で月に2500万ユーザーが訪れるほどになりました。
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