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加藤千恵×岡本雄矢 歌人対談

2024.04.28 公開 ポスト

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』×加藤千恵『あなたと食べたフィナンシェ』刊行記念対談【前編】

“マジで不幸を呼ぶ岡本雄矢さん”再び!?加藤千恵さんとの“リベンジ対談”で、前回に続き、早々にやらかす…岡本雄矢( 主に“トホホ短歌”を詠む「日本に(たぶん)ただ1人の歌人芸人」)/加藤千恵(歌人・小説家)


ストーリーを書きながら「ここを短歌にしよう」とは考えてなかった(加藤さん)

加藤 X(旧Twitter)とか見ていても、今の人たちは短歌上手ですよね。岡本さんの「センチメンタルが殺しにくるぞ」とかも「あぁ、めっちゃわかる感覚だな」と思いました。同じ感情を抱いたことがある人はいると思うんです。懐かしさに殺されそうになる、懐かしさで苦しくなることってあると思うんですけど、それを「センチメンタルが殺しに来るぞ」って書くのは、岡本さんならではの表現だなと。本当に情景が浮かぶなって思います。それとエッセイがセットになってるのがすごいなと思って、たぶんセットで思い出せる感じがあるんですよね。他にそういう方ってあまりいらっしゃらないから、確実に長所ですよね。

気をつけろそこは母校へ続く道センチメンタルが殺しにくるぞ(岡本)

岡本「経験してないけど、なんかあるって思う」と言っていただくことは多いですね。

自転車で豪快にこけてやっぱりか この夏初の半ズボンの日(岡本)

加藤 半ズボンで自転車で派手に転ぶのって、小学生とかのときにはあったかもしれないけど、大人になってからはないはず。でも「あぁ、でもわかるな」みたいな、そういうのがすごくたくさんありましたね。他の人が気づいてないところに気づいていたり、立ち止まっているなっていう印象は『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』のときと変わらずあって。

見上げても見上げなくてもあの雲は何にも似てない形をしてる(岡本)

岡本『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』の文庫解説で、雲の短歌を褒めていただいてますけど、ほとんど言われたことないんですよね、その歌って。「麦茶」や「スクーター」のような、パッと笑えるものを褒めてもらうことはあるんですけど。

左手に見えますホストに座られているのが僕のスクーターです(岡本)

加藤 そうなんですか? 文庫解説を依頼されて、何首か短歌を引用したいな、と思って読み返していたら、「あぁ、確かにこれはそうだな、すごいな」って、すごく衝撃だったんですよね。「何にも似てない雲」って確かにめっちゃ見てるけど、短歌にしようと思ったことなかったと思って。たぶん岡本さんには、そういう光景がたくさんあるんだろうなとか、自分が取りこぼしていることに立ち止まって、ちゃんと見つけて、拾い上げている。化石を発掘するような、すごいことだなと思って。

岡本 だからめっちゃ嬉しかったです、加藤さんの文庫解説。僕は“気にしぃ”なところがあって、それは自分の嫌な部分だと思ってたんですけど、「それがあるから、やっぱりこういうことが生まれる」みたいなことを書いていただいたので、めちゃくちゃありがたかったです。

加藤 通り過ぎてしまいそうな光景に立ち止まって、ちゃんと歌にするところがあるなぁって。

岡本 加藤さんは、どういう作り方をするんですか?

加藤 私は「書かなきゃ」と思ってパソコンに向かって苦しみながら書いているので、たぶん立ち止まってないんでしょう(笑)。ひねり出して、絞り出してると思いますね。

岡本 でも「想像する」っておっしゃったじゃないですか?

加藤 そうですね……。でも今は、短歌は作ろうと思って作ってる感じかもしれないです。だから、本当にストックたくさんあるのがうらやましいです。私も欲しい(笑)。

岡本 加藤さん、ストックはゼロなんですか?

加藤 ゼロではないんですけど、少ないです。依頼頂いたら、もうひねり出して、絞り出して、ギューッてします(笑)。『あなたと食べたフィナンシェ』は、料理があって、話を作って、短歌……だったので、順番としては、岡本さんと逆ですよね。ストーリーが出来上がって、2、3回読み返して短歌を書くという感じなので。なので、ストーリーを書きながら「ここを短歌にしよう」とは考えてなかったです。短歌脳に切り替えてから、という感じですかね。

岡本 そう聞くと、確かに、まったく逆ですね。僕のエッセイは「答え合わせ」みたいな。加藤さんの作品は、小説の後ろ、最後に短歌があるのがすごくいいですよね。小説読んでから、短歌、というのが。

加藤 私、岡本さんのは、短歌を読んでみて、エッセイはこういう話かなって想像するけど……まあ当たらないです(笑)。

岡本 それはいいことなのかな……?(笑)「当たらない」みたいな意見は初めて言われたかもしれないです!

加藤 終電後のカラオケ館での短歌がありましたけど、最初短歌を見て、「これはキャッキャしている感じかな?」と思ったら全然違っていて。でも「あっ、こっち寄りね。この光景わかる」と思いました。当たらないのが面白いです。

明け方のカラ館502号室ホットウーロン流行りはじめる(岡本)

岡本 加藤さんの小説は、最後に短歌がありますけど、シーンを切り取ってるっていうよりは「話の全てを三十一音に収めてる」っていうイメージですよね。そこがすごいなと思います。

加藤 今回私は「本当に食べたいものを書く」というところからでした。

岡本 それこそ、もうずっとできませんか? だってこの世に食べ物、まだまだあるから!

加藤 そういえば私、大学入試の受験勉強で、「三題噺(さんだいばなし)」が出題される大学があることを知って、自発的に解いてたので、そういう書き方がたぶん好きなんだと思います。だから全然受験勉強になってなかったですけど(笑)。

――デコボコ対談、後編へ続く!(構成/成田全)

関連書籍

加藤千恵『あなたと食べたフィナンシェ』

家を出るお父さんが教えてくれたアンキモの味。引っ越す友達と分け合ったグミ。仕事を辞めて久しぶりに作るキュウリのサラダ。恋人に別れを告げられ、目の前で冷めていくビスマルクピザ。子どもと食べる初めてのフライドポテト。恋、仕事、親との別れ――人生の忘れられない場面には必ず食べものの記憶があった。珠玉のショートストーリー+短歌集。

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』

今日も世界の片隅で、ひとり膝を抱える僕とあなたのために。 不幸に愛された、トホホ名人……歌人芸人が身を切って綴る、“せつなさとおかしみ”、“短歌とエッセイ”のマリアージュ。 恋でも、仕事でも、その辺にいるときも。あのときも、今も、どうせ明日も。 傷づいたり落ち込んだり。顔では笑っているけど、心は砂漠。 僕の日々は小さな不幸の連続です。トホホな出来事がよく起きて、センチメンタルに殺されそうな日々です。 でも、不幸があると短歌ができます。その短歌を読んで誰かがクスリと笑ってくれます。そうすると僕の小さな不幸は成仏されるのです。 短歌があればトホホも友達です。もしあなたに今、憂鬱なことがあるのなら、僕と一緒にトホホを小さな笑に変えてみませんか。 □すすきのを3周したのにあのホスト僕の原付にまだ座ってる □注意するほどじゃないけどないんだけど新人さん少し休憩長い □帰ろうと言い出す前の沈黙を作りたいのにずっと喋るね □自転車で豪快にこけてやっぱりか この夏初の半ズボンの日 □ワンテンポ隣の席が早いのでコース料理次々とネタバレ □節約のために水筒持ち歩き パチンコでむちゃくちゃ負けている □もうこれで最後だの感じ出したのに3日後に会う機会があった □短歌とか少しも興味のない君に届かせたくて詠んでる短歌                   …ほか、トホホ短歌に、トホホエピソードを添えて。

岡本雄矢『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』

昨日もトホホ、今日もトホホ。憂鬱だらけの毎日も、短歌に詠めば何かが変わる!「あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです」「さっきまで順調だったレジの列 急にもたつきだす僕の前」「ものすごい数のハトが集まっているおじさんに人は集まらない」他、105首の短歌とエッセイで綴る、ほろ苦さとおかしみに満ちた愛すべき日々。

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加藤千恵×岡本雄矢 歌人対談

短歌を詠みつつ、小説やエッセイを書くふたりの対談。創作秘話から、作品と真逆の素顔、まさかの「不幸」勃発まで目が離せない展開です。締めくくりには因縁のおもてなしエピソードも。

バックナンバー

岡本雄矢 主に“トホホ短歌”を詠む「日本に(たぶん)ただ1人の歌人芸人」

詠み始めるとなんでも”トホホ短歌””不幸短歌”になってしまうという特徴を持つ、「日本にただ1人の歌人芸人」。1984年北海道生まれ。吉本興業所属。コンビ「スキンヘッドカメラ」で活動中。YouTubeで「芸人歌会」を開催。北海道新聞等で連載も。

短歌とエッセイを収録した初の著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』には、俵万智さん、穂村弘さん、板尾創路さんからアツい推薦文が寄せられた。

最新刊は『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』。

加藤千恵 歌人・小説家

1983年、北海道生まれ。短歌集『ハッピーアイスクリーム』で高校生歌人としてデビューした後、2009年、『ハニー ビター ハニー』で小説家としてもデビュー。以降、小説、詩、エッセイなど様々な分野で活躍。近刊に『マッチング!』『一万回話しても、彼女に伝わらなかったこと』などがある。最新刊は『あなたと食べたフィナンシェ』。

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