靴が汚れない竹内さんがすごい
小林 そこまで突き詰めて考える人もあまりいないと思います。僕が写真が撮れなくなったとしても、「どうしようかなぁ」という感じになるのかなと。
竹内 でも、思うようにいかないと苦悩はすると思いますよ。小林さんは写真家としての自分と作家としての自分をどのように捉えていますか。
小林 僕は文章と写真では、別人になったみたいに違う感覚です。写真は目の前で突然起きたことに反応していく。ポートレイトを撮らせてもらうときは、その人の機嫌や体調がいいとか悪いとか、難しそうだなとか思ったよりいいものが撮れたなとか、つねに被写体があってこそで、コントロール不可能な部分があります。文章では、自分で取材をするときは事前に調べて質問を考えていきますが、渋いことを言ってもらいたいなというところで竹内さんのようにスルーされたりすることもあるので(笑)、インタビューも反応かも知れないですね。最終的に文章にするときは、たとえば、竹内さんのようにヒマラヤのダイナミックな風景を見てきている方が、きゅっとした箱庭みたいな日本の風景を見たらどう感じるんだろうということを登っているときに考えたな、といったことを思い返しながら書いていきます。それでいうと、八ヶ岳に一緒に登ったとき、竹内さんは地衣類とか地味なものをカメラで撮っていて、けっこう意外だなと思いました。見ているところが興味深かったですね。あとは、靴が汚れないのがすごいなあと(笑)。
竹内 そんなに感心されることだとは思っていませんでした(笑)。
小林 もちろん、登山家の山登りは違うだろうとは思っていたんですけど、岩場とかじゃなくて普通の登山道だから、実際そこまで違わないんじゃないかと思っていたんです。でも速さもすごい。階段を登っていくような速さで行っちゃうから。驚きました。
(→後編に続く)