一日一冊読んでいるという“本読み”のアルパカ内田さんが、幻冬舎の刊行作品の中から「今売りたい本」を選び、そして“POP職人”としての腕を振るって、手描きPOPも作ります。
そして、アルパカ内田さんへの「オススメ返し」として、幻冬舎営業部の人気者・コグマ部長からも、一冊ご紹介。
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元カリスマ書店員でPOP職人のブックジャーナリストが売りたい本
第32回 真梨幸子『教祖の作りかた』
みなさん、こんにちは。教祖がつくのは今日の嘘。アルパカ内田です。
「イヤミスの女王」真梨幸子の新刊は、禁断の領域に踏み込んだ快作である。単にエンターテインメント性が高いだけではない。現代社会が抱えた病理をものの見事に炙り出し、さらには作家・真梨幸子の揺るがぬ宗教観・哲学が伝わってくる。著者の作品群の中でも頂点を極める一冊であることは間違いない。
物語は25年ぶりの同窓会での再会から始まる。憧れの彼はさらに魅力を増して弁護士になっていた。不適切な関係を結ぶと同時期に起きていたのは、引きこもりの息子による金銭絡みで家庭崩壊寸前の出来事だった。危機を救うべく弁護士の彼から提案されたのは「宗教法人を継承する」こと。行き先は天国か、それとも地獄か。ここから運命の歯車が激しく動き出す。
猟奇的な殺人事件、信仰という名の詐欺行為、ネット社会が生み出す新たな犯罪。ささいな違和感から狂気が芽生え、過剰な愛から殺意が生まれる。読みながら、そのメカニズムが手に取るようにわかる。無意識に膨らんだ依存がいつしか肉体と精神を蝕んでいくのだ。理不尽なこの世は呪縛だらけである。不器用でも慎ましく生きている人間たちを決して這い上がることのできない蟻地獄へと突き落とす。
甘美な誘いに薄れゆく意識。ラストに待ち構えるのは心臓破りの衝撃だ。欲に塗れた人間が生み出した「怪物」たちはきっと誰もの身近にいる。本書は欺瞞に満ちた時代への警鐘でもあるのだ。1ページたりとも油断してはならない。心して読むべし。
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アルパカ通信 幻冬舎部
元カリスマ書店員で、POP職人でもある、ブックジャーナリストのアルパカ内田さんが、幻冬舎の新刊の中から、「ぜひ売りたい!」作品をピックアップ。
書評とともに、自作の手描きPOPも公開。
幻冬舎営業部のコグマ部長からの「オススメ返し」もお楽しみください!
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