元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。
毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第五回のテーマは「秋に読みたい本」です。読書の秋、二人のおすすめの本をぜひ読んでみませんか?
読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。
* * *
藤岡:今回もよろしくお願いします。
菊池:よろしくお願いします。
藤岡:今日(10月2日)は暑いんですけど、今年は夏が長くて。異例の残暑とか言われてたんですけど……。
菊池:ほんとそうですね。
藤岡:そんな中でも、最近ちょっと秋めいてきたという感じですよね。
菊池:やっとちょっと気温も下がり始めてって感じですね。
藤岡:そんな季節にピッタリの「秋に読みたい本」というテーマで今回はやっていきたいと思います。
菊池:はい。お互い秋に読みたい本といえば、という一冊を選んできました。
菊池良の「秋に読みたい本」:ヨシタケシンスケ『あるかしら書店』(ポプラ社)
藤岡:じゃあ、今回は菊池さんが選んでくださった方から行きますか。
菊池:はい。僕が選んだのは、ヨシタケシンスケさんの『あるかしら書店』です。
藤岡:すごくかわいい本。
菊池:ヨシタケシンスケさんって絵本作家の方なんですけど、この本は絵本というより、ハードカバーで絵が多めの本っていう感じになってますね。
藤岡:そうですね。絵がたくさんあるけど、だからといって子ども向けなのかと言ったら、そうでもないような印象。
菊池:うんうん、そうですね。いろんな年齢の人が楽しめる本になってると思います。
「あるかしら書店」っていうのは書店の名前です。「本にまつわる本」の専門店っていう設定で、いろんなお客さんが「なんとかについての本ってあるかしら?」って尋ねるんですけど、それがどういう本でも「ありますよ」って店主が答えて、いろんな本が出てくるっていう本です。
藤岡:そうそう。この世に存在しない、すごい発明的な本とかコンセプトがボンボン出てくる。
菊池:1ページごとにいろんな架空の本が出てきて、本だけじゃなくて、いろんな、水中図書館とか、本の降る村だとか、そういういろんな架空の本のアイデアが出てくる本で、すごい楽しいなって思って読みましたね。
藤岡:そうなんですよね、最初はいろんな本が出てくるのかなって思って読みはじめると、もっともっと広がるというか。本の周り、本という概念を壊すような、めちゃくちゃ突き抜けた発想。
菊池:そうですね、だんだん本っていう概念自体で遊び始めて、絶対あり得ないような本が出てきたりするんですよね。
藤岡:そんな中でも、本ってそうだよねとか、本屋さんってそうだよねって、あるあるとして納得してしまう、すごいリアルな要素が詰め込まれたファンタジーな設定だったりして、そこが読んでてニヤニヤしちゃいましたね。
菊池:ヨシタケさんの本の全体の特徴でもあるんですけど、すごくいろんな発想が詰め込まれています。しかもそれが、どれもくすっときたりとか、そんな発想があったのか! っていうのばっかりで、読んでいて楽しめるものになってますよね。
藤岡:そう! 例えば、本のカバーを変更する機械っていうのがすごい面白くて。本棚にあったらちょっと恥ずかしいかもしれない本を、もうちょっとおしゃれにというか、見え方が良くなるようにカバーを変更する機械があるっていう。確かに私も、金儲けの本みたいなやつが本棚にあったら、ちょっとね、友達が家に来たら露骨すぎて恥ずかしいって思ったりするんですけど、このカバー変更機は、例えば『転職したいあなたへ』っていう本を『新しい景色を求めて』っていう本にしたら会社でも気まずくなく読める、みたいな。
菊池:うん、そうですね。電車の中とか、人に見られる場所でも大丈夫。
藤岡:そうそう。本当にこんな機械があったら欲しい。
菊池:使ってみたいですよね。他にもお墓の本棚とかもいいですよね。
藤岡:あれ、めっちゃよかった。本当にあったらいいなって思ったんですよね。亡くなった故人が好きだった本がお墓に納められていて、お墓参りに来た人が借りれるし、借りる代わりに故人に読んでほしい本を逆にそのお墓の本棚に入れて置いてくるっていう。
菊池:すごくロマンチックな本棚ですよね。
藤岡:私のお墓もこのお墓がいい。
菊池:自分のお墓を作るとしたら。誰かが来た時にいろんな新しい本も入れてほしいですよね。
藤岡:これを繰り返したら結構どんどん本が変わっていって、最終的には面影のない本棚になると思いますが、それはそれで。
菊池:その人に読んでほしい本なので、新しくなってってもその人らしさが出るのかもしれないですね。
藤岡:そういうことを考えると、すごい。たった見開き1ページで表現されているんですけど、そういう風に未来のことまで考えたりして、ぐっとくるアイデアですよね。
菊池:そうですよね。
架空の本について考えることも読書の楽しみのひとつ
菊地:この本を選んだ理由っていうのが、 読書の秋だからっていうのもあるし、この本自体が好きだからっていうのもあるんですけど。前にこの連載で取り上げた、『読んでない本について堂々と語る方法』で書かれていたことにも、この本って繋がるんじゃないかなって思いまして。
藤岡:確かに。本とは何か、みたいな感じですよね。
菊池:そうですね。タイトルだけ読んで頭の中で想像するだけでも、それは読書なんじゃないかとか、そういう話もあったじゃないですか。こういう、架空の本について考えることも、読書としてすごく面白いなって僕は思うんですよね。
藤岡:確かに『あるかしら書店』はいわゆる「読書」って聞いた時に想像するものより、めちゃくちゃ世界を広げてくれる本ですよね。
菊池:うん、そうですね。思考が拡張されるような感覚もありますし。読んでいると、自分もそういうアイディアを考えたくなりますよね。
藤岡:そうなんです。菊池さんはいつも新しい企画とか、新しい本を作ってますもんね。発想が新しいものを日々作られているので。
菊池:僕自体の発想の参考にもなりますし。あと、架空の本自体が僕は好きなんですよね。『ハリー・ポッター』とかにも出てくるじゃないですか、タイトルと名前だけが出てくる本。その中身を想像するのも楽しいですし、自分自身もこういう本があったら面白いかもなって考えること自体がすごく楽しいですね。
藤岡:存在しないということがすごく思考を自由にさせるし、これまでの考えからさらに広い世界に連れてってくれるような、そういう自由さと余白がある。
菊池:本当にそうですね。どんどん可能性が広がっていくのを感じるというか。こういうタイプの本ってちょこちょこあって。いろんな架空の書評を集めた本ですとか。
藤岡:はいはい。
菊池:又吉さんとヨシタケさんが書かれた『その本は』っていう、『あるかしら書店』の後に出た本なんですけど、それもこういうタイプの、いろんな架空の本について書かれたもので、それも面白いなって思いましたね。
藤岡:みんなで空想を一緒にできる感じがあるんですよね。
菊池:そうですね。自分も参加できるというか。
藤岡:私もちょうどこの間、架空の書評をテーマにした同人誌に参加して。
菊池:へー、面白いですね!
藤岡:はい。『ミモザ』っていう渡辺祐真さんと宮田愛萌さんが主催されている同人誌なんですけど。それも本当にみんな勝手に、こんな本ないけどその本の書評を書くっていうのを集めた同人誌でしたね。
菊池:へえ、すごく面白そう。
藤岡:そうなんです。発想の世界を広げてくれるし、それにまつわるコミュニケーションも生まれたりして、読書っていう世界を盛り上げてくれるテーマなのかな、「架空の何とか」っていうのは。
菊池:そうですね。架空の本について考えることも読書なんじゃないかなって思いました。
藤岡:読書の秋といえども、秋ってすごく短いから、たくさん読もうと思っても、 あっという間に過ぎ去ってしまうっていうのがあるじゃないですか。
菊池:はい。
藤岡:でも、『あるかしら書店』を一冊読むだけでも、すごく豊かな読書の秋になるというか。
菊池:はい、そうですね。
藤岡:ね。本とか、読書にまつわる文化の豊かさっていうのを思い出したり、知ったりできる本だなと思いました。
菊池:こういう本を読むことで、一冊で何十冊も読んだ気分になれるかもしれないですね。
藤岡:そうですね。だから、忙しすぎる人で、でも読書の秋を味わいたい人、『あるかしら書店』を読んでください(笑)。
「架空の読書会」にいつかチャレンジするかも……?
菊池:ちなみに、藤岡さんが書いた架空の書評っていうのは、どういう本について書いたんですか。
藤岡:「エキストラをしているある男性の日記本」っていうテーマで書きました。普段はサラリーマンとして働いていて、毎週末エキストラとしていろんな作品に関わってるみたいな。それを趣味としている人が、「今日はこんな現場に行って、こんな役を演じた」みたいなことを日記にしてる本。日記本って今流行ってるじゃないですか。なので、もしそんな本があったら読みたいなと思っていたんです。
菊池:ああ、面白そうです。
藤岡:それでちょっとイメージを膨らませて。楽しかったです。やっぱり書いてる自分が一番楽しいんで、この企画って。
菊池:その本読みたいなって思いました。毎週違う役柄で違う人生を演じる人の日記って、すごい興味ありますね。
藤岡:そうですよね。実は、実際そういう方がいらっしゃって。
菊池:へえ、そうなんですか。じゃあ、いずれそんな本が生まれる可能性もあるかもしれない。
藤岡:未来先取りの読書をしました。
菊池:「エキストラの人についての日記」っていうタイトルだけでも色々想像が広がって、それも読書なのかなって思いました。
藤岡:そうなんですよ。まだ生まれてない本を読むっていう読書。
菊池:架空の読書会とかも面白いかもしれないですね。
藤岡:そうですね! この毎月やっているマッドブックパーティを何回かやったら、あるタイミングで架空の本を持ち寄ってお話するっていうのも、アリかもしれない。めちゃくちゃになる可能性もあるんですが。
菊池:特別編。面白そうです。
藤岡:そうですよね。「今なら行ける!」って思った時にやってみましょう。
菊池:むちゃくちゃになる可能性も高いですが、そうですね。
というわけで今回は、架空の本を読むことも読書なんじゃないかっていう『あるかしら書店』について紹介いたしました。
藤岡:はい、ありがとうございました。
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読書の秋にぴったりの一冊でした。藤岡さんのおすすめは来週公開ですのでお楽しみに。
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