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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

2025.03.13 公開 ポスト

藤岡みなみが「春に読みたい本」は暮らしと新たに向き合える『ふやすミニマリスト』菊池良(作家)/藤岡みなみ(エッセイスト/タイムトラベラー)

元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。

毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第十回のテーマは「春に読みたい本」です。新生活など、様々なイメージのある春ですが、お二人が選んだのはどんな本なのでしょう? 

 

読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。

*   *   *

菊池:マッドブックパーティー第10回になりました。

藤岡:おめでとうございます! いえーい、ついに10回。やってきましたね、ここまで。
だから、今回が20冊目ってことですね。1回に2冊だから。

菊池:本当ですね。結構紹介しましたね。

藤岡:結構紹介しましたね、そう考えると。

菊池:はい。楽しいですね。

藤岡:楽しい。やっぱり1人で読むときとは全然読み方が違うから、「菊池さんはどういうことを考えてこの本をおすすめしてくれたんだろう?」とか思いながら読むので。

菊池:そうですね。今回のテーマは……、

藤岡「春に読みたい本」

菊池:ですね。もうすっかり暖かくもなってきて。

藤岡:そう、徐々にね。暖かくなってきたので。春と言えば色々、新生活とか、環境が変わったりする人も多かったりするのかな?​​​​​​

菊池:いろんなキーワードがありますよね。

藤岡みなみが「春に読みたい本」:藤岡みなみ『ふやすミニマリスト 所持品ゼロから、1日1つだけモノをふやす生活』(幻冬舎文庫)
​​​​​​

藤岡:今回私が紹介するのは自分の本なんですけど、ふやすミニマリスト 所持品ゼロから、1日1つだけモノをふやす生活という本を持ってきました。
これなんとですね、先月2月6日に幻冬舎文庫から出たということで。

菊池:文庫化。

藤岡:そう、文庫化! 元々は2021年に単行本が出てたんですけど、2025年2月に文庫化ということで。

菊池:おめでとうございます。

藤岡:ありがとうございます。人生初の文庫化だったので、嬉しくて。
それでこれ、なぜ春に読みたい本かというと、やっぱり春は、新しい暮らしが始まったりとか、環境の変化がない人も、新たなスタートというか、気持ちを新たに暮らしを見つめてみたいなっていう時期かなと思いまして、そんな時に読んでいただきたい本として持ってきました。

菊池:はい、まさに新生活がテーマというか、所持品ゼロから1日1つだけモノを増やす生活。

藤岡:そうなんです。これ、2020年に私がした挑戦で、100日間この挑戦をしたんですけど、最初はモノがほとんどない状況。さすがに裸でスタートだとちょっと、お見苦しいかなとか色々考えて、最低限白Tシャツは着てたんですけど、それ以外はもう何もない、家具も道具も何もない部屋でスタートして、100日間1日1つだけ新しい道具を出せるっていうルールで過ごした、そのレポートと感じたことが詰まっている本です。

菊池:はい。1日1つ、自分の所持品を増やしていけるっていうことですね。

藤岡:そうなんです。だから、本当に必要なモノが切実にわかるんです。
普通に暮らしている中では、ものすごい何万個という数の道具に埋もれて暮らしてるから、なんでこの道具が必要なのかとか、無意識のうちに生活してるんですけど、それを一回リセットして、人生一回ゼロからやってみるみたいな、ゲームの一番最初のスタートに戻してみるみたいな感じで過ごしてみたんですね。それがすごく新鮮で。
普段は欲しいと思う前から「あって当然でしょ」みたいな感じで冷蔵庫とか洗濯機とかありますよね。でもこの100日間は、最初は何もないので「うわ、これめっちゃ必要じゃん!」って思ったら、そのアイテムを出すみたいな、心の声に耳を澄まして選んでいく生活で。

菊池:本当に必要なモノから取り出してくわけですからね。

藤岡:はい、そうなんです。
これ、新生活の方に読んでいただきたいのはそういう点で、私も自分の暮らしをあんまりまじまじと見つめることってなかったんですけど、まっさらな状態にして初めて見えてきたことがたくさんあったからなんです。

共感から意外まで、様々な思考のあと

藤岡:自分からこの本を紹介したいって持ってきたのはいいものの、菊池さんの感想を今日は多めに聞きたいなと思ってます(笑)。

菊池:そうですね、1日1つ所持品を増やしてくわけですけど、確かになっていうのもあれば意外なものもあって、すごく面白かったですね。

藤岡:そうなんです。例えば1日目は、敷布団を選んだんですね。それは何もない床に座り続けるのがもう苦痛で仕方がなくて。

菊池:あぁ、なるほど。

藤岡:床に座るとお尻がこんなに痛くなるんだ、このまま夜を迎えたらどうなっちゃうんだろうと思って、もう敷布団しかないと思って。だからそこで「私が人生で一番大事な道具って敷布団だったんだ」って初めて知るんです。

菊池:生活必需品というか、確かになっていう視点になる選択ですね。

藤岡:そうなんです。1日目は結構共感してもらえる選択かなと思うんですけど。
ただ意外なのが、まだ冷蔵庫とか洗濯機もないくせに、7日目に爪切りを出すんですね。爪切りって、なくてももうちょい我慢できそうって思われるかもしれないんですけど、でもその時はもう「切りたい切りたい!」ってなってしまって。
自分が何日に1回爪を切るのかとかも全然知らずに生きてきたんだけど、実は7日目には結構伸びてるんですよ。

菊池:確かに、最低7日は切ってないってことですからね。

藤岡:そうなんです。100日間あったら結構何回も出てくるんですよ、爪切りって。100日あったら何回も爪が伸びるから、「そうか、爪切りってこんなに順位が高いんだ」って思って。
菊池さんだったら、1日目から5日目ぐらいまでの中で、どういう道具をまずは欲しいと思いますか。

菊池:僕は、敷布団の前に、毛布かもしれないですね。

藤岡:あ、毛布が好きなんですね。毛布いいですよね、安心するから。

菊池:くるまりたというか。

藤岡:くるまりたいんですね。菊池さんは

菊池:そうですね(笑)。

藤岡:確かに、例えば災害とかがあって避難する時、毛布って必ず配られますよね。それって人間にとって必要な物の中で、すごく高い順位にあるから用意されてるんだろうなって思ったりしますね。

菊池:そうですね。床は固くても結構大丈夫かな、僕は。

藤岡:お尻に自信が。

菊池:そうですね。結構床で寝ても大丈夫なタイプです。

藤岡:そういう人いますよね。疲れてよく床で寝てますっていう人いたりしますよね。
本当に人によって違って、私は9日目に本を出したんです。

菊池:はい。

藤岡:まだ全然必要なモノがない、お箸もない、鍋もない……って中で本を出したんですが、なぜならやっぱり暇だった(笑)。スマホもパソコンもない、テレビもないってなった時に、膨大な時間と向き合うことになって。

菊池:取り出したのが『読書の日記』っていう本ですよね。

藤岡:めちゃくちゃ分厚い本ですね。

菊池:読書日記で、1100ページあるんですね。

藤岡:そうなんです。なので孤独も癒してくれるというか。

菊池:いろんな本のことも知れますしね。

藤岡:そうなんですよ。100日間で最大100アイテムっていう限界があるから、本を出すなら分厚い本が得なんじゃないかって思って。

菊池:そうですね。日記ってところもいいかもしれないですね。

藤岡:あ、そうなんですよ。人の生活が自分の生活に流れ込んでくるような親近感もあって。
でもきっと、菊池さんも本をかなり早めに出すタイプなんじゃないかなと思ってるんですけど。

菊池:そうですね。僕はもっと早いかもしれないです。

藤岡:敷布団より早いかもしれないですね。菊池さんの場合。

菊池:2日目かもしれない。

藤岡:2日目の可能性ありますね。

菊池:毛布と本で。

藤岡:そう。毛布と本があれば、なんかそのまま行けそうですよね。

菊池:そうかもしれない。

モノがなくても、時間は豊かに流れる

藤岡:普段は「時間がない、時間がない」って言って過ごしてるじゃないですか。なんで1日で24時間しかないんだろうって。でも、いざ目の前から身の回りからモノがなくなると、自分がすごくたくさんの時間を持っていたことに気づいて。道具の中に時間が吸収されてたというか。不思議なんですけど。
同じ24時間のはずじゃないですか。普段のモノに囲まれた24時間と、何もない部屋で外の音とか聞いてる24時間と、客観的には同じなはずなのに、1日が3日間、数日間ぐらいに感じるぐらい、すごく長くて。暇だけど、とっても豊かなことに気づくというか。

菊池:時間の感じ方が全然変わるんですね。

藤岡:はい。これを知れたことが、すごく嬉しかったんです。自分の暮らしを見つめる中で、どういう時間を過ごしていきたいのかを改めて考える機会になりました。
多分、モノが増えても時間をゆったりと過ごすコツがあるんですよね。

菊池:うんうん。

藤岡:そういう風に意識して、この生活が終わった後もやっていきたいって思えたんですが、この挑戦から5年ぐらい経ってるけど、まだ効能があって。
修行みたいな感じの、断食道場とかあるじゃないですか。そういう特殊な合宿に行って、その時の経験が後の人生に影響してるみたいな、そういう体験かもしれないですね、自分の中で。

身の回りにある物の豊かさにも気づく

菊池:結構ライフハック的な発見もありますよね。

藤岡:そうなんです。第1章が「100日間の記録」で、第2章が「気づいたこと100個」。菊池さん的に「気づいたこと100個」で気になった項目とかってあったりしますか。

菊池:そうですね。僕は10日目にも出てくる、「全身シャンプー」。シャンプーがあれば全身洗えるんだなって思いました。

藤岡:そうなんですよ。全身シャンプーってほんとありがたい道具で。だって100個のうちの1個で、3つか4つぐらいの機能がありますから。

菊池:こういう商品があることも知らなかった。

藤岡:そうなんですか? よかった。あるんですよ。しかもお風呂場がごちゃごちゃしなくて済むっていう。

菊池:これはモノが限られてるからこその発見というか、そういう風に感じましたね。

藤岡:そうなんです。モノが限られてるからこその発見だし、1つ1つがすごいありがたくて。例えば冷蔵庫とかもすごいありがたくて。

菊池:はい。

藤岡:ない時は食べ物の寿命がすごい短くて。肉とか買ってももう数時間以内に使わないといけないんだけど、冷蔵庫があれば3日とか保存できるし、なんなら冷凍庫に入れたらもう数週間いけるっていう、「なんだこりゃタイムマシーンじゃん!」みたいな。「食べ物、未来に送れるっていうことなんだ!」って。

菊池:めちゃくちゃ便利だったんですね。

藤岡:そう。そんなすごい道具をも当たり前のように使わせていただいていたんだなと思いました。

菊池:そういう、これってめちゃくちゃ便利だったなっていう発見はいっぱいありそうですね。

藤岡:そうなんです。読んだ方もきっと冷蔵庫を持ってると思うから、「あ、私のそばにあるこの冷蔵庫ってそんなすごい道具だったんだ」って、自分が持っているモノの豊かさに気づいてもらえるんじゃないかな。すごい宝をたくさん持ってるんだって。

菊池:そうですよね。便利って意外と最初しか感動がなかったりして、結構すぐに忘れちゃうんですよね。

藤岡:そうなんです。一度失うとすごい思い出します、そのこと。

菊池:電車乗るときのSuicaってあるじゃないですか。僕が子どもの頃は切符をいちいち買ってて、Suicaになった時めちゃくちゃ便利だな思ったはずなんですけど、今なんとも思わずに使ってるなとか。

藤岡:これって人間関係も結構そうですよね。親とか、友達とか、夫婦とか、当たり前の関係になっちゃうと、そのありがたみとか色々薄れるんだけど、親元離れて気づいたなんかこととかあるだろうし。
そういうリレーションシップが、道具と自分の間にもあるんですよ。これを自分が選んで使っていくっていう時に、その道具との関係性を放棄していたモノもあれば、すごい気に入ってたら、ちゃんと維持しているモノもあったりして。

菊池:うんうん。モノへの愛着も増えそうですね。

藤岡:そうですね。やっぱり選んだ100個の道具は、今でも宝物です。

少し無茶な生活の、挑戦の記録

藤岡:100日間終わると100個の道具が手に入るんですけど、80日目とかになってくると、それまで80日暮らせてるっていう実績もあるし、段々もう、そんなにいらないなっていう気持ちが湧いてくるんですよね。

菊池:あぁ、意外とそれぐらいでもう生活できるちゃうんですね。

藤岡:そう。普段は何万個も道具があるくせに、いざ生活してみたら数十個で足りるってことは、普段囲まれてるモノってほとんどいらないものだったってこと? って、ちょっとそこはぎょっとするというか。

菊池:必需品ではないのかもしれないですね。

藤岡:そうですね。ただ私は今もずっとその100個の道具だけで暮らしてるわけではもちろんなくて、いらないけど、そばにいてほしいモノに囲まれて暮らしてるので、あくまでやってみた記録で、「全員ミニマリストになろうよ!」みたいな本ではないです。でも、やってみることで一回向き合える。

菊池:改めてありがたみがわかるんですね。すごい実験、チャレンジだと思いました。

藤岡:ありがとうございます。ぜひ春に読んでみてください。
タイトル的にライフスタイルをおすすめするような本かな? みたいな、いい感じのライフスタイル本みたいな印象を持たれるかもしれないんですけど、どちらかというとドキュメンタリーというか、ちょっと無茶なことをやってる挑戦の記録みたいな感じなので、そういうのが好きな人に読んでもらいたいです。

菊池:そうですね。自分ならどうするかなって考えたりするのもすごく楽しいです。

藤岡:はい、というわけで、私がおすすめの「春に読みたい本」藤岡みなみ『ふやすミニマリスト 所持品ゼロから、1日1つだけモノをふやす生活』でした。

*   *   *

続きは来週更新します。菊池さんの「春に読みたい本」もお楽しみに!

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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。

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菊池良 作家

1987年生まれ。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著)は累計17万部を突破する大ヒットを記録。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』『ニャタレー夫人の恋人』などがある。

藤岡みなみ エッセイスト/タイムトラベラー

1988年、兵庫県(淡路島)出身。上智大学総合人間科学部社会学科卒業。幼少期からインターネットでポエムを発表し、学生時代にZINEの制作を始める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。文筆やラジオパーソナリティなどの活動のほか、ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)、『keememej』(2021)のプロデューサーを務める。

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