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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

2025.03.20 公開 ポスト

菊池良が「春に読みたい本」は回文とショートストーリーの組み合わせが楽しい『軽いノリノリのイルカ』菊池良(作家)/藤岡みなみ(エッセイスト/タイムトラベラー)

元々、芥川賞候補作を読んでお話しする読書会をX(旧Twitter)で行っていた菊池良さんと藤岡みなみさん。語り合う作品のジャンルをさらに広げようと、幻冬舎plusにお引越しすることになりました。

毎月テーマを決めて、一冊ずつ本を持ち寄りお話しする、「マッドブックパーティ」。第十回のテーマ「春に読みたい本」の後編です。菊池さんが選んだのは佇まいも春らしい爽やかな本のようで――。 

 

読書会の様子を、音で聞く方はこちらから。

*   *   *

菊池良が「春に読みたい本」:又吉直樹/満島ひかり『軽いノリノリのイルカ』(マガジンハウス)

菊池:僕が選んだのは、又吉直樹さんと満島ひかりさんの共著で『軽いノリノリのイルカです。

藤岡:これ、すっごい面白かったです。

菊池:こちらマガジンハウスさんから出ていて、どういうタイプの共著なのかというと、ここが一番意外な部分だと思うんですけど、満島ひかりさんが回文を作っていて。このタイトルの「軽いノリノリのイルカ」もそうなんですけど、頭から読んでも終わりから読んでも同じになってる言葉を満島ひかりさんが作って、それに対して又吉さんがショートストーリーを書いてるっていう形式の本です。

藤岡:すごいですよね。満島ひかりさんのこの回文の才能。

菊池:そうですね。雑誌で連載を始める少し前に、趣味で始めたみたいなんですけど。それにしてはいきなり長いのを作ってて。

藤岡:長いんですよね。しかも頭の中で作ってそのまま出せるっていう。信じられない。

菊池:他の回文作家の方との対談も入ってて、そこで作り方についても話してるんですけど。
作ってない側からすると、まず文字にして全部ひらがなにして調べてくのかなって思ったら、頭の中に浮かんで思いつくって話していて。どうなってるのかよくわかんない。

藤岡:すごい、天才だ! 回文って、めちゃくちゃ制限があるじゃないですか。上から読んでも下から読んでも一緒にしなきゃいけないって相当大変で。
例えば短歌とかも制限がある言葉遊びというか、文字数って決まってますよね。私が短歌が面白いと思うのは、その制限があるからこそ、思いもよらない表現が自分の中から出てくるところなんですけど、回文はそれのストイックバージョンだなって思います。

菊池:そうですね、短歌だとリズムなので、まだ作り方もわかるというか、入門しやすいかなって思うんですけど。回文になると、一体どうやってるのかが……(笑)。

藤岡:そう、わかんないですよね。でも、それでも満島さんらしさがすごく出てて。
回文って制限が多いから、自分で言葉を選ぶ余地が全然ないんじゃないかなって思うんだけど、でも、その人のカラーが出てて。自分で選んでいるようで選んでないし、選んでないようで選んでるみたいな言葉の組み合わせになる。

菊池:すごい個性が出るんですよね、この本読んでてもわかるんですけど。

藤岡:そうそう。満島さんが20代の頃に聖書を全部読んでるっていうのが影響して、回文も聖書っぽいというか神々しい感じのものが多くて。そこに着想を得て又吉さんが書いた小説も、神聖な感じがするものとかがあったりして。

菊池:最後におまけで、又吉さんが作った回文もちょっと載ってるんですけど、それも又吉さんっぽい回文になってるんですよね。これがすごい不思議で。

藤岡:不思議。だって全然選択肢がないはずじゃないですか、回文にしなきゃいけないってことは。なのに。

菊池:言葉のチョイスだとか……。不思議ですね。

それぞれが好きな回文は?

藤岡:どの作品も素敵ですよね。本当に詩的というか。
そして回文にしなきゃいけないから、意味がはっきりあるわけじゃないんだけど、意味ありげな言葉だからこそ、小説、物語が生まれて。で、その物語を読んだ後に、もう一回元となった回分を読むと、すっごいしっくりくるというか。

菊池:うん。そうですよね。すごい詩っぽいんですよね。

藤岡:そう、詩ですよね。
菊池さんは、好きな回文と小説の組み合わせありました?

菊池:そうですね……。僕は河童が出てくるやつ。えっと……、これですね。
「心移る川と月、甘い恋と曖昧、あと憩い。まぁきっとわかる、通路ここ。」
これだけでものすごく長い。

藤岡:長い。

菊池:それに対する又吉さんのショートストーリーが河童についての短編で、この回文には河童は一切出てこないんですけど、どこか繋がってるというか、そういう発想で来るのか! っていう驚きもありますし、その意外性と共通性に驚きましたね。

藤岡:そうなんですよね。偶然がいい仕事をしているというか。一見意味がなさそうだけど、詩的な回文に引っ張られて生まれてきた小説っていうのが唯一無二で、世界のどこかにこんな世界があるんだって覗かせてくれるような。更にそれを、二人ともすごい楽しんでる感じがします。この偶発性というか。

菊池:はい。すごい偶然性があって、面白いですよね。
藤岡さんは好きな組み合わせありました?

藤岡:私は、「あります永和、イエス、マリア」っていうやつが好きで。
小説もかなり好きでした。ちょっとタイムトラベル感というか、パラレルワールド感もあって、好みの内容だったんです。回文は満島さんらしい、「マリア」とか出てくる神聖な感じで。小説も神聖な感じもありつつ、又吉さんらしい、ひねくれ感があって。
姉妹の物語なんですけど、お姉さんのよくわからない行動が出てきて、なんでそれをしたのかが後々わかって、そこがすごい又吉さんっぽいというか、又吉さんが書く物語の登場人物の行動だから理解できる感じがして、読んでいて気持ちよかったし、タイトルがとてもしっくりくる。

菊池:うん、これもすごく面白いですよね。

藤岡:面白かった。

読書入門としてもおすすめ!

藤岡:なんでこの本を春に読みたい本にしたんですか。

菊池:いろんな理由があるんですけど、まずタイトルの『軽いノリノリのイルカ』に春っぽさを感じました。爽やかさとか、軽やかさとかを感じて、すごく春っぽいなって思ったんですね。

藤岡:爽やかですね。この本、佇まいがめちゃくちゃ爽やか。

菊池:それと、新生活というか、新しく何かを始めるという視点として、回文の入門にもなるのかなって。

藤岡:そうですね。回文入門(笑)! 確かに。

菊池:あと、読書の入門というか、本を読み始めた人に向けてもすごくいい本なのかなって思います。

藤岡:そうそう。すごく読みやすいですね。素敵な写真もいっぱい入ってて。

菊池:そうですね。満島さんの回文と又吉さんの小説と、あと写真もいっぱい入ってて、すごく読みやすいし、贅沢な本だなとも思いましたね。

藤岡:そうですね。これ友達にプレゼントしたいし、春に公園とかで読んでほしい。

菊池:あ、いいですね。

藤岡:ね、そういうのにもぴったり。

菊池:そういった意味で、春にふさわしいかなって思いました。

藤岡:いや、めちゃくちゃわかります。

菊池:又吉さんの短編がこんなに読める本ってあまりないと思うので。

藤岡:確かに。

菊池:短編集とかはありますけど、ショートストーリーなんで3ページぐらいで終わるものもあるので、すごく読みやすいだろうなって思います。

藤岡:回文の味わい方って難しいですもんね。すごいな、繋がってるんだなで終わっちゃう時もある。でも、又吉さんの世界観豊かな物語で回文に命が宿るというか。物語を読んだ後にもう一回回文を読むと、より回文を味わえる。「こんな世界が閉じ込められた一行だったんだ」ってなるから、回文の味わい方として一番いいんじゃないかなって。

菊池:すごい相乗効果が出てますよね。
あと、これは新生活とかじゃないんですけど、言葉のコラボレーションでこういう形があったのかっていう発見もあって、非常に面白い本だなって思いました。

藤岡:ですね。ありがとうございます。

菊池:はい。僕が選んだのは、『軽いノリノリのイルカ』でした。

次回のテーマを決めましょう

藤岡:では、次回のテーマですよね。また全然考えてなかった。

菊池:はい、そうですね。次回のテーマ、藤岡さん、やりたいのとかありますか。

藤岡:え。どうしよう、どうしよっかな。「笑える本」ってやりましたっけ。

菊池:そうですね。やりましたね。

藤岡:じゃあ、どうしようかな……。じゃあ、それこそ、「人にプレゼントしたい本」はどうですか?

菊池:あ、いいですね。

藤岡:そうしましょう。

菊池:はい。では次回のテーマは「人にプレゼントしたい本」で。

藤岡:はい。お願いします。ありがとうございました。

菊池:ありがとうございました。

*   *   *

次回のテーマは「人にプレゼントしたい本」。意外と本のプレゼントって難しいですよね。お二人がどんな本を選ぶのか、お楽しみに!

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菊池良と藤岡みなみのマッドブックパーティ

菊池良さんと藤岡みなみさんが、毎月1回、テーマに沿ったおすすめ本を持ち寄る読書会、マッドブックパーティ。二人が自由に本についてお話している様子を、音と文章、両方で楽しめる連載です。

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菊池良 作家

1987年生まれ。「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」シリーズ(神田桂一氏との共著)は累計17万部を突破する大ヒットを記録。そのほかの著書に『世界一即戦力な男』『芥川賞ぜんぶ読む』『タイム・スリップ芥川賞』『ニャタレー夫人の恋人』などがある。

藤岡みなみ エッセイスト/タイムトラベラー

1988年、兵庫県(淡路島)出身。上智大学総合人間科学部社会学科卒業。幼少期からインターネットでポエムを発表し、学生時代にZINEの制作を始める。時間SFと縄文時代が好きで、読書や遺跡巡りって現実にある時間旅行では? と思い、2019年にタイムトラベル専門書店utoutoを開始。文筆やラジオパーソナリティなどの活動のほか、ドキュメンタリー映画『タリナイ』(2018)、『keememej』(2021)のプロデューサーを務める。

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