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「おかしいのは他人であって、自分ではない」

田房 その彼のセックスは本当にひとりよがりでした。

中村 田房さんの新刊『男しか行けない場所に女が行ってきました』(イースト・プレス)で「ガスコンロSEX」と名づけていたやつですね。彼は「乳首をひねればボッと膣に火がつくと思い込んでいる」という(笑)。

田房 そういう人は、「彼女(妻)よりいかに自分が優位に立っているか」が重要だから、彼女からちゃんとセックスして欲しいと言われても、受け入れるわけないんですよね。「そんなこと言うなんて、性欲が強い特殊な女だ」ということにしたりする。彼女や妻という存在を、「お互い楽しく成長できる対等な相手」じゃなくて、「自分の世話をしてくれる人」とか「自分を気持ちよくするべき人」として捉えてるんだと思います。女性経験があっても、結婚してても、子どもがいても、自分の彼女や奥さんのことを、自分にとって都合のいい面しか見ないようにしてる人は「メンタル童貞」だと思います。

中村 自分のルールを頑なに崩さないのも、中年童貞の特徴だと思いました。AKB48の「恋愛禁止」ルールだって社会的には異常ですけど、ファンの中年童貞的な人たちに合わせているから成立する。僕もAKB48は好きだけど、さすがにその建前を守れとは思わない。

田房 以前、そのルールを破った人が丸坊主になりましたよね。すごくびっくりしましたけど、一部のファンは「恋愛禁止のルールがあると分かってて、自由意志で所属してるんだから当然だ」と言ってました。自分たちの好きなものが社会を震撼させてるのに、平然と「これが普通」と言い切る人が多くて不気味でした。そういうことだったんですね。

中村 「おかしいのは他人であって、自分ではない」。この思い込みが職場で発揮されると、ひどいことになります。

田房 介護の現場ですか?

中村 はい。世の中には様々な職業があるけど、現在の介護現場はおそらく一番ひどい。僕もそんなつもりで転職したわけじゃなかったのに、真の底辺を見ました。介護現場での離職率の高さは世間的に言われている“低賃金”が理由ではなく、“人間関係”がトップ。要はパワハラの嵐で、中年童貞の職員が気の弱い女の子を怒鳴り散らしたり、資格を持ってない新しく入った人たちに偉そうにしたりする。「俺のほうがあいつより優れている」と常に上目線だし、トラブルになっても、絶対に自分の非は認めない。何度注意してもやめなし、他人に非を押し付けて、言い訳ばかり。

竹村 男の人の社会ってマウンティング合戦というか、順番付けみたいなことがすごいですよね。だから童貞というコンプレックスを、他のところで何とか気持ちだけでも挽回しようみたいな力が働くんじゃないでしょうか。

中村 一発逆転の発想ですね。自分自身を客観視して得意分野で挑戦するならばいいけど、社会的に必要とされている介護に流れて“俺は社会に必要とされている素晴らしい人間”みたいな発想は本当に腐っている。きついですよ。結局、自分の理想と現実に乖離があるから、弱い者イジメとか愚痴が止まらないんです。(第2回に続く)

 

関連書籍

中村淳彦『職業としてのAV女優』

業界の低迷で、100万円も珍しくなかった最盛期の日当は、現在は3万円以下というケースもあるAV女優の仕事。それでも自ら志願する女性は増える一方だ。かつては、「早く足を洗いたい」女性が大半だったが、現在は「長く続けたい」とみな願っている。収入よりも、誰かに必要とされ、褒められることが生きがいになっているからだ。カラダを売る仕事は、なぜ普通の女性が選択する普通の仕事になったのか? 長年、女優へのインタビューを続ける著者が収入、労働環境、意識の変化をレポート。求人誌に載らない職業案内。

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『ルポ中年童貞』刊行記念対談 中年童貞はなぜ増えているのだろう? ~その社会と構造を考える~

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田房永子 漫画家

1978年生まれ、東京都出身。漫画家、コラムニスト。第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2012年、母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を刊行し、ベストセラーに。他の著書に『ママだって人間』『キレる私をやめたい』『人間関係のモヤモヤは3日で片付く』『喫茶 行動と人格』などがある。最新刊は『女40代はおそろしい』。

中村淳彦

1972年生まれ。ノンフィクションライター。AV女優や風俗、介護などの現場をフィールドワークとして取材・執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、さまざまな過酷な現場の話にひたすら耳を傾け続けている。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)はニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされた。著書に『新型コロナと貧困女子』(宝島新書)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など多数がある。また『名前のない女たち』シリーズは劇場映画化もされている。

 

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