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第1回第2回で、中年童貞、ひいてはメンタル童貞が生まれる背景を考えてきました。最終回は、中年童貞問題がもたらす日本の未来に思いを馳せます。このままでは国が危ないと危機感を募らせるも、果たして、有効な手立てはあるのでしょうか?(聞き手・構成:稲田豊史 イラスト:田房永子)

なぜ中年童貞は介護の現場に多いのか

中村 そもそも、なぜ中年童貞が介護職員に多いかというと、国策で失業者を介護に誘導して、社会的に偉いねって言われて、ヘルパーの資格が簡単に取れるからです。

竹村 でも、介護職は社会に貢献している聖職というイメージが強いですよね。

中村 そうです。もちろん親も反対しませんし、世間からも「介護やってるなんて偉い」と言われます。

田房 すごく難しい仕事のはずですよね。どんな仕事よりも高いコミュニケーション能力が必要だと思う。

1月30日に発売されたばかりの田房さんの新刊。「男しか行けない場所」への率直な感想が痛快です。

中村 それだけじゃなくて、経験や医療知識も必要な専門職です。なのに、国は2009年に雇用政策として中年童貞をみっちり集めて介護の現場に送りこんでしまった。それは、人口の多い団塊世代が後期高齢者、つまり75歳以上になる「2025年問題」があるから。今、140 万人しかいない介護従事者を、10年後までに240万人に増やさないといけない。誰でもいいから増やす必要があると。

田房 “爆弾”がどんどん送り込まれてるんですね。

中村 今回の本には、“昭和の厳格なお父さん”のように指導力のある人がいれば、中年童貞を教育できるという意見も出しています。でも、中年童貞がいるような労働集約型の職場は、とにかく効率性・合理性が第一。昔ながらの会社のように、丁寧な人間教育をすることはできません。現場レベルでの改善は望めないのが現実です。

竹村 それだけ人手不足ということですか。

中村 介護される高齢者のことを思うと、中年童貞的な職員には他の産業に行ってもらうか、生活保護とかベーシックインカムなどで国に面倒を見てもらったほうがいいと思うけど、高齢者は毎日のように増え続けている。現場は明日、明後日を乗り切ることで精一杯です。彼らは他に行き場所がないから、中年童貞が残って普通の人が逃げるという負のスパイラルが起こっている。

田房 八方塞がりですね。

中村 国策によって介護業界が中年童貞を受け入れてしまったので、もう戻せませんよ。だから介護は中年童貞的な人材が就く仕事ということで諦めて、政府には「高齢者になって身体が元気じゃなかったら、ああいうところに送られちゃうよ。健康に努めましょう」みたいに広報してもらうしかないです(笑)。

向井理の精子を配れ

田房 そうなると、お見合いとかで無理に中年童貞の人たちに結婚してもらわないほうがいいですよね。かつての社会は、お見合いシステムで童貞野郎を女性とくっつけて、女性には子どもを産め、外に出ないで静かに生活しろと、という圧力をかけ続けてきました。そのなれの果てとして、中年童貞というモンスターが生まれてしまったのだから……。

竹村 中年童貞の連鎖を断ち切って、セックスできる人、つまり強い遺伝子だけを残すということですか?

田房 『ルポ中年童貞』の第四章で、中村さんが「女性はどうして深く考えることなく、常に“強い種”を持っていそうな男に惹かれるのだろうか」と書かれているのを読んで、男の人から見たら、女が中年童貞のケアを責任もってしてくれればいいのにって思うだろうな、と思いました。いろいろ丸く収まるから(笑)

竹村 押し付けられても困りますね(苦笑)。

田房 「男は種をまき散らしたい生き物だから浮気をする」という以上に、「女が、いい遺伝子を残す男しか相手にしない」のは生理的にどうしようもないこと。少子化対策って言いますけど、もし本当に今すぐ日本に子供を増やしたいんだったら、無理に中年童貞を結婚させて遺伝子を残そうとするんじゃなくて、速水もこみちとか向井理の精子を配るしかないと思うんですよ。

一同 笑

田房 シングルマザーでも育てやすい社会システムをしっかり作るのが前提ですけど、結婚はしたくないけど子どもは欲しいと言う女性はたくさんいます。何が言いたいかというと、「子どもを生んだら楽しい、お得だ」という実感を女たちが持てないことが、少子化の原因だということです。

竹村 一夫一妻制は、結局はモテない男に得なシステムですからね。もし一夫多妻制になったら、少数のいい男にたくさんの女が集まって、モテない男はあぶれます。今は一対一の一夫一婦制だから、あまりモテない男性も底上げで結婚できているわけで。

田房 あるいは、夫は育児要因として1人だけいて、その人の子供は1人産むけれども、あとは速水もこみちや向井理の子供を産んで、その家庭で育てられるっていうシステムが整えれば、かなり子供の数は増えますよね。単純に、女の好きなようにさせる、ってことなんですけど。

竹村 身も蓋もない話ですけど、ますます救われませんね。

田房 今は、男の好きなようになってるんだと思います。子どもが生まれても、男は「ちょっと仕事増やさないとな」という感じだけど、女は保育園がないから仕事をやめたりしなきゃならない。子どもを産んでから夜、一人で6年間も8年間も外に出たことがないというママもザラにいます。仕事をやめたり、半日軟禁生活になったり、人生がガラッと変わってしまうんです。その人が選んだことではあるけど、「家事・育児は女一人で頑張れ」という風潮が根強く影響してると感じます。その上で「中年童貞と結婚してやれ、ちゃんと種を残してやれ」って言われても、はあ? ですよね。女の人の性質を無視して、男の性質だけを尊重してる。産むのは女なのに。

 

関連書籍

中村淳彦『職業としてのAV女優』

業界の低迷で、100万円も珍しくなかった最盛期の日当は、現在は3万円以下というケースもあるAV女優の仕事。それでも自ら志願する女性は増える一方だ。かつては、「早く足を洗いたい」女性が大半だったが、現在は「長く続けたい」とみな願っている。収入よりも、誰かに必要とされ、褒められることが生きがいになっているからだ。カラダを売る仕事は、なぜ普通の女性が選択する普通の仕事になったのか? 長年、女優へのインタビューを続ける著者が収入、労働環境、意識の変化をレポート。求人誌に載らない職業案内。

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『ルポ中年童貞』刊行記念対談 中年童貞はなぜ増えているのだろう? ~その社会と構造を考える~

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田房永子 漫画家

1978年生まれ、東京都出身。漫画家、コラムニスト。第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2012年、母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を刊行し、ベストセラーに。他の著書に『ママだって人間』『キレる私をやめたい』『人間関係のモヤモヤは3日で片付く』『喫茶 行動と人格』などがある。最新刊は『女40代はおそろしい』。

中村淳彦

1972年生まれ。ノンフィクションライター。AV女優や風俗、介護などの現場をフィールドワークとして取材・執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、さまざまな過酷な現場の話にひたすら耳を傾け続けている。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)はニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされた。著書に『新型コロナと貧困女子』(宝島新書)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など多数がある。また『名前のない女たち』シリーズは劇場映画化もされている。

 

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