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「童貞化する日本」の行く末は、国力の衰退?

中村 次世代の子供たちをどうやって中年童貞にしないか、という話となると本当に難しいですね。僕にも子供がいるけど、周囲の皆が口をそろえて言うのは、やっぱりマザコンはダメだってこと。

田房 「すべて母親まかせ」の世の中で、マザコンが氾濫するのは仕方ないですよね。「お母さん自身も自分の楽しさを見つけて」とか言われても、押しつけられて夜に一人で出かけることもできないんだから、無理ですよね。

竹村 実際、マザコンに育てようと思ってエネルギーを注ぐわけじゃなくて、真面目さゆえでしょうし。

田房 本気でマザコンや中年童貞の濃度を減らしたいなら、それこそ国レベルで、意識的に母子を引き離すような育児体勢を整えないと、お母さんたちの「息子をお世話する欲望」は止められないと思います。毎週金曜の夜は全国各地で女たちのパーティーが開催されて、金曜の夜は男たちは必ず帰宅が義務づけられて、シングルマザーの家には派遣の保育士が来て「早くパーティーに行きなさい」って言われちゃうから外出しなきゃいけない。そんな“フライデーママ制度”とか作るしかない。そのうち「過剰に子どもをケアする女はダサい」という風潮になると思うから、そこでやっと、マザコン濃度が薄れていくと思います。今は、子どもの面倒を見まくっている母親が、いい母親だという社会認識だから。

中村 (笑)

竹村 日本の女の人って、すごく優しいから、恋愛中でも彼の意図を汲み取って、先に与えてしまいますよね。だからお母さんになっても、息子がうまく言えないことを先回りしてしまう。「こうしてほしいのね」って。外国で日本女性がモテるのは、その優しさが尋常じゃないからみたいですよ。

田房 この日本を覆っているのは、メンタル中年童貞ですよ。ほんとに。

竹村 「童貞化する日本」ですね。

中村 問題は、甘やかされている童貞男が増えるというだけでは済まなくて、それが産業全体に及び、やがては国力の低下につながるということですよ。実際、これから最も伸ばすべき介護の現場に、ダメな人材がどんどん行っちゃってるわけですから。日本の1人あたりのGDP(国内総生産)は昨今落ちいてしまっていますけど、ここには中年童貞が深く関わってると思います。現場を見ていると、そう感じざるをえません。

田房 でも、一応、そういう人たちによって経済が潤ってる部分ってありますよね。アニメとかアイドルとかで。

中村 いえ、調べていてわかったんですけど、経済を潤わせているのは比較的年齢の高い高学歴のオタクであって、本書で主に問題にしている低学歴・低収入の中年童貞とは必ずしもイコールではありません。含まれてはいますけど。

田房 違うんですか。

中村 今50代のオタクの人たちの青春時代はネットもなかったし、コンテンツが簡単に手に入らなかったから、甘やかされてない、望むものが簡単に手に入ってないんですよ。彼らはコンテンツだけで心の穴を埋められなかったから、一応ちゃんと学校に行って勉強もするし、就職もする。

田房 学歴はいいんですね。

中村 人によっては早稲田や慶應や東大を出て、いいところに就職する。甘やかされてなかったから、そこで普通の人のフリをして、何とか一生懸命生きてこれている。そういう人はえてして収入が高いんです。高い収入を全部オタクコンテンツに注ぎ込んだのが、秋葉原が潤った原因というわけです。

田房 へえ〜。

中村 ところが昨今のオタク、概ね30代以下はコミュニケーションが苦手です。一方で仕事はコミュニケーション能力を必要とするものが増えてきているから、高収入ではない。だから今は秋葉原のコンテンツにも全然お金が回ってないらしいです。つまり、ここで問題にしている中年童貞は経済に寄与していない。

竹村 昔の日本だったら、黙ってひたすら働けばお金をもらえる職場がたくさんありましたよね。でも、だんだん黙って作業すればいいような仕事、たとえばラインで働く工場労働なんかは、少なくなっています。そして残るのは、介護職をはじめとした、コミュニケーション能力が求められる仕事ばかり。でも、それに応えられる人材は少ない。

中村 中年童貞を抱える職場では、何かがおかしいとみんな気づいているんですよ。でも口に出して言わなかったり、彼らのひどい振る舞いに我慢している。今まで「おかしな奴がいるね、この職場イヤだね」程度の愚痴で済ませちゃってたから、こんな大事に至ってしまった。僕が介護の会社をやってたこともありますけど、このまま行くと本当に産業が潰れるなと実感したんです。

田房 『ルポ 中年童貞』、みんな読まなきゃ。

中村 ええ、国民みんなが中年童貞の存在を知って、ちゃんと考えたほうがいいと思います。この国の行く末の問題ですからね。(了)
 

関連書籍

中村淳彦『職業としてのAV女優』

業界の低迷で、100万円も珍しくなかった最盛期の日当は、現在は3万円以下というケースもあるAV女優の仕事。それでも自ら志願する女性は増える一方だ。かつては、「早く足を洗いたい」女性が大半だったが、現在は「長く続けたい」とみな願っている。収入よりも、誰かに必要とされ、褒められることが生きがいになっているからだ。カラダを売る仕事は、なぜ普通の女性が選択する普通の仕事になったのか? 長年、女優へのインタビューを続ける著者が収入、労働環境、意識の変化をレポート。求人誌に載らない職業案内。

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『ルポ中年童貞』刊行記念対談 中年童貞はなぜ増えているのだろう? ~その社会と構造を考える~

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田房永子 漫画家

1978年生まれ、東京都出身。漫画家、コラムニスト。第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2012年、母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を刊行し、ベストセラーに。他の著書に『ママだって人間』『キレる私をやめたい』『人間関係のモヤモヤは3日で片付く』『喫茶 行動と人格』などがある。最新刊は『女40代はおそろしい』。

中村淳彦

1972年生まれ。ノンフィクションライター。AV女優や風俗、介護などの現場をフィールドワークとして取材・執筆を続ける。貧困化する日本の現実を可視化するために、さまざまな過酷な現場の話にひたすら耳を傾け続けている。『東京貧困女子。』(東洋経済新報社)はニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞ノミネートされた。著書に『新型コロナと貧困女子』(宝島新書)、『日本の貧困女子』(SB新書)、『職業としてのAV女優』『ルポ中年童貞』(幻冬舎新書)など多数がある。また『名前のない女たち』シリーズは劇場映画化もされている。

 

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