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『探検家の日々本本』刊行記念対談 角幡唯介×鈴木涼美 危険でも行かなくてはならない場所、書かなくてはならないこと

2015.02.14 公開 ポスト

『探検家の日々本本』刊行記念対談 角幡唯介×鈴木涼美 危険でも行かなくてはならない場所、書かなくてはならないこと

第2回 私を承認してくれるのは誰?角幡唯介/鈴木涼美

「俺にはできない」「私にはできない」。お互いの違いを確認するところから滑り出した対談。しかし「危険を冒してでも味わいたい興奮」というワードでシンクロした二人は、大盛り上がりで第2回に突入。いよいよ話題はそれぞれの行動の核心へと迫ります。「探検のなにが面白いの?」。そして「なぜ男が必要なの?」。わかったり、わからなかったりしながら、人間の奥深さへと分け入っていくかのような対話をご堪能ください。最後にはそれぞれへのオススメ本も紹介!

文 日野淳  写真 有高唯之

 

 


一度も言語化されていないものを書く難しさ

鈴木 角幡さんの文才は、たまたまあったということですか? 新聞社で訓練して書けるようになったってことではないですよね?

角幡 新聞社影響はよくわからないですね。間違ってない日本語を書けるようになったというのはあります。小さい頃すごく読書家だったわけではないし、小説を書いて机の中に隠している子どもでもなかった。ただ自己表現みたいなものは昔から好きでした。

鈴木 どんな表現だったんですか?

角幡 僕が大学の頃ってインターネットが出てきたばっかりだったんですが、当時はブログがなかったから、自分でホームページを作って、登山とか探検の記録を書いていました。今も探検とか冒険をやっているベースには、それを書きたいという欲求があるんです。例えば、真冬の真っ暗闇の極地に行ったら、こういうことができて、こういうことが書けるんじゃないかと、何を表現できるかが探検を決定する際の大きな基準になる。探検や冒険行為そのものを自分の世界を構築するための表現手段にしているわけです。

鈴木 私はダンスとか音楽をやっているアーティストに憧れがあって、でも自分にはそういう才能はなかったんです。文章って誰でも最初に覚える表現手段じゃないですか。だからそれで行くしかなくて。文章を書くのがすごく好きっていうよりは、それができるからって感じだった。でも考えてみたら大学時代からゼミで雑誌を作ったり、ホームページを作ったりして書き散らかしてはいたので、たぶん苦にはならないんです。

角幡 なるほど。

鈴木 楽しそうな雰囲気があるとそれを文章に落としたくなる。毎回違う言葉を見つけたくなるというか。でも自然の中に入って、目の前にあるものを書くのってすごく難しいですよね。一度も言語化されていないものを書くってことですものね。


角幡 特に風景を書くのは難しいです。

鈴木 人がいると表現しやすいじゃないですか。そこには会話もあるし。角幡さんの場合は、よくわからないけどそこにある現実、言語化されるためにあるのではない現実を前にしているわけです。写真だったらわかるけど、文章にするのは大変だと思います。

角幡 そうですよね、無理があるんですよ(笑)。自然の中へ入って書くのって、本来は物語なんてないところに物語を作らなくてはいけないですし。

鈴木 本を読むのがお好きなのは、言語化しにくいものにいつも対峙しているから文字を欲するということですかね。私は自分がキャバ嬢しかやってない時期が続くと、すごい本を読み出しました。知的な物、文字に飢える。流氷ばっかり見てたら、文字がほしいと思うんじゃないかと。

角幡 確かに帰ってきたばっかりの時は、本ばっかり読んでますね。そういうのはあるかもしれない。
 

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角幡唯介

1976年北海道生まれ。早稲田大学卒、同大探検部OB。『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー渓谷に挑む』で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞。『アグルーカの行方 129人全員死亡、フランクリン隊が見た北極』で講談社ノンフィクション賞を受賞。

鈴木涼美

1983年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了。小説『ギフテッド』が第167回芥川賞候補、『グレイスレス』が第168回芥川賞候補。著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論』『おじさんメモリアル』『ニッポンのおじさん』『往復書簡 限界から始まる』(共著)『娼婦の本棚』『8cmヒールのニュースショー』『「AV女優」の社会学 増補新版』『浮き身』などがある。

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