2014年はこれまで多くの人に気づかれないまま深刻化していた〈若年女性の貧困〉が、一気に顕在化した年でした。テレビ、新聞、雑誌などの媒体がこぞって特集を組み、関連書籍も立て続けに発売されました。なかでも、さまざまな状況下にある貧困女性に会って取材をし、ナマの声を赤裸々に書きつづった『最貧困女子』(幻冬舎)と、突然リストラされた後に転職活動を試みるも100社連続不採用、そこから生活保護を受給するにいたるまでの一部始終をまとめた『失職女子。~私がリストラされてから、生活保護を受給するまで』(WAVE出版)は大きな話題となりました。それぞれの著者である鈴木大介さん、大和彩さんによる対談は、女性の貧困問題からジェンダー論までに広がります。
(取材・文 三浦ゆえ)
鈴木 僕は長らく、貧困状態にあるだけでなく、その貧困が〈可視化されていない〉人たちを男女問わず取材してきました。そのなかでもさらに、差別の対象にすらなっている貧困セックスワーカーの女性たちについてまとめたのが、『最貧困女子』です。〈若年女性の貧困〉がにわかに社会問題化したおかげで、同書にも注目が集まりましたが、僕としては「ずっと昔からある問題じゃないか」という思いがあります。そんななか、同時期に発売された『失職女子。』を読んで、当事者が書くからこそのリアリティに揺さぶられました。貧困支援の活動をしている人たちにとっても、大和さんの本は衝撃的だったでしょうね。貧困に陥った人、生活保護受給者は日々、こんなにつらい思いをしていたのか、と。
大和 読んでいただいて、ありがとうございます。私が生活保護を申請するかどうかで悩んでいたとき、当事者の、しかも女性が書いた生活保護についての本を読んで参考にしたかったのですが、まったく見当たらなかったんです。女性向けサイトで連載していたものを書籍化、というお話をいただいたときは、いま困っている女性たちに少しでも役立ててもらえれば……と考え、こうして1冊にまとめました。同じ時期に、『家のない少女たち~10代家出少女18人の壮絶な性と生』(宝島社)や、『出会い系のシングルマザーたち』(朝日新聞出版社、『最貧困シングルマザー』として文庫化)をはじめとする、鈴木さんの著書も読みました。
そのなかに、虐待家庭で育った女の子が、小学校にもろくに通わせてもらえなくて読み書きもあまりできないのに、独学で算数を勉強しているというエピソードがありました。もともと頭がいい子で、「将来、大学に行けたらいいな」と言いながら、家族を養うのにセックスワークで働いている。その彼女の、「私は大きくなったら人の痛みがわかる人になりたい」というひと言を読んで、すごくハッとしたんです。当時の私は心がすさんでいて、世界中を呪うモードに入っていましたから衝撃がすごかった。だから『失職~』にも「人の痛みがわかるおとなになる」という一文を入れました。鈴木さんへのオマージュなんです。
ひとつうかがいたいのですが、鈴木さんが取材された方々にとって、〈生活保護〉とはどういう存在なのでしょう?
鈴木 『最貧困シングルマザー』で取材した女性たちは制度として知っているし、受給している人、受給を検討している人もいます。『家のない少女たち』『援デリの少女たち』(ともに宝島社)に出てくる、虐待家庭や貧困家庭に育ったアウトロー属性の少女たちは、そもそも知らないか、〈おじいちゃんおばあちゃんが受けるもの〉と思っていますね。そして身近に保護世帯が多いなかで育ってきた子たちは、猛烈な嫌悪感を持っています。
これって、この国の貧困の実態や、生活保護という社会保障の実態を示していますよね。生活保護に捕捉されやすい貧困者と言えば、まず高齢者。ホームレスもほとんど高齢の方です。そして、いちばん見えやすい貧困とは、路上で寝ているホームレスのオジサンたちです。あれが貧困というものなら、家に住んでいるシングルマザーや少女たちはそこまで困っていない。ぎりぎりでも食べていけているなら貧困とは言えない。対岸にいる人たちからすると、そんなものなんです。だから、可視化されてこなかった。