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「埼玉」からみえる地方と消費のゆくえ

2015.03.12 公開 ポスト

前編

“何もない”埼玉にある「マス消費」と「高感度消費」の絶妙なバランス中沢明子/速水健朗

ロンハーマンとGAPの違いは何か

速水 消費社会論においては、記号、もっといえば広告だってことになってますよね。マルクスの「生産手段の平等」は実現しなかったけど、フォードがT型で「消費における平等」を実現した。でも、GMが出てきて、広告や陳腐化の手法で「消費における上下」を生み出したと。車種の選択による階級をつくったんですね。上下というのは、マーケティングで選択させられる、つまりそこに本質はないというのが、現代の消費社会論の記号消費の話だと思うんですよ。
 そこで僕が思うのは、ロンハーマンについて。だって、GAPの商品とロンハーマンの商品並べて、「どっちがロンハーマンですか?」と言われたら、半分の人は当たらないんじゃないかな。

中沢 ロンハーマンを買っている人自身もね。

速水 でも値札見ると、ざっと10倍違うわけですよ。記号消費では語れないのがロンハーマン。とても複雑なことになっているなと。ちなみに、あれを47都道府県につくったらどうなるんだろう?

中沢 それについては、私もロンハーマンのチェーン店が全国にできればいいと思ってはいません。あるいは、最近京都にも支店ができたARTS&SCIENCEが47都道府県にできればいいとも思っていない。だけど、「ARTS&SCIENCEの服を仕入れているお店」が47都道府県にあればいいな、ぐらいの感じです。

速水 そのニュアンスは分かりますけど、それをした時点でやっぱり陳腐化するんじゃないのかなあ。

中沢 それは多少するでしょうね。たぶんARTS&SCIENCEの服を着る人というのは、それ以外のライフスタイルもかなり似通っているし、価値観も、それこそ政治的な思想もほぼ同じだろうから、その人たちで集まって、地方の中心街活性化、地方再生に力を発揮して頑張ってほしいっていう感じです。

速水 人は記号ではなく、もっと本質的なもの、ライフスタイルそのものを選択しているんだという説ですよね。でも僕は、それを成立させるのは、規模になると思ってしまう。

中沢 松本だと成り立つ?

速水 どうかなあ。基本的には、20万人規模の小さな街ですよ。

中沢 でも、松本に「ARTS&SCIENCEの服を仕入れているお店」はあるんですよ。

速水 本当に持続可能なんだろうか。マス消費は、最大公約数の消費で、つまり郊外型ショッピングモール。それがファスト風土を生み出している。それでは満足できない人は必ずいるんですけど、それが一定数いないと、商売は成立しないですよね。

中沢 47都道府県に、今よりももうちょっといろんなものが買えるようなお店とか、場所とか、事も含めてできるのは、無理だっていうこと?

速水 想像ですけど、ロンハーマンが成立するのは、やはり20万人ではなく、200万人とかなんだと思います。80年代90年代の郊外化した地方で新しい消費環境が整備されたのは事実ですけど、それが持続可能かというと、僕は厳しいと思っている派です。だからそれをむやみに肯定する理論には反発しているんです。
 そういう意味では、僕は思想的には「埼玉化」は反対なんですよ。ファスト風土にも東京にも近い、両方享受できる空間こそ可能性がある、というのは。競争原理にすると、自然にそういう消費環境は淘汰されてなくなるだろうというのが、僕の考えです。

中沢 あれー、速水さん味方だと思ったのに敵だった(笑)。

速水 そうですか。僕は「これから人は都心に住みましょう、郊外に住むのはやめたほうがいいんじゃないか」って言っています。つまりは、「埼玉なくしていこうぜ」って(笑)。

中沢 埼玉なくしていこうぜ(笑)。でも、地方で豊かに暮らすこと、何をもって豊かに暮らすと言えるのか、私は考えるんです。何か買えるとか楽しいことができるとか、そういうものの選択肢がもうちょっと増やすにはどうしたらいいかを考えたいわけですよ。

速水 あ、それは「人口増やす」一択ですね。人口が増えれば、選択肢が増える、多様性が増えるので。

中沢 え、それは工夫がしようがない?

速水 僕はないと思う。

中沢 速水さんの言っていることもよく分かるんだけど、そういう都会のほうがいいという価値観を共有している人たちって、高感度消費の人たちでしょう? 高感度消費にも2通りあって、自然派と都会派と両方あるから面倒くさいんですが、「テレビ観ない」とか言う人たちって、都会派に行かないでしょ?

速水 いや、僕、同じだと思っています。鎌倉に住んだり、葉山に住んだりしている人は、港区に住むのとほとんどメンタリティは変わらない。あくまでも都市文化の中に「自然」「オーガニック」ファクターが加味されただけというか。

中沢 それは、ハイコンテクストな文脈が分かっている人たちでしょう。そこまでいってない人たち、つまり、大多数の人はそこは共有できてないと思う。
(後編は3月19日公開の予定です)

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中沢明子

1969年東京都生まれ。ライター、出版ディレクター。女性誌、ビジネス誌など幅広い媒体でインタビュー、ルポルタージュ、書評を執筆。延べ1800人以上にインタビューし、雑誌批評にも定評がある。得意分野は消費、流行、小売、音楽。著書に『埼玉化する日本』(イースト・プレス)、『遠足型消費の時代』(古市憲寿氏との共著/朝日新書)など。

速水健朗

1973年石川県生まれ。ライター、編集者。コンピュータ誌の編集を経てフリーランスに。専門分野は、メディア論、都市論、ショッピングモール研究、団地研究など。『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)、『都市と消費とディズニーの夢』(角川oneテーマ21)、『1995年』(ちくま新書)ほか著書多数。朝日新聞読書面「売れてる本」担当、TBSラジオ「文化系トークラジオLife」メインパーソナリティ等、多方面で活躍中。

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