丸谷は、メールの中身を確認した。
お返事がいただけず残念です。
アルティメイトクラウドのデータには、さほどの価値もないようですね。
このまま無視されるようなら、全てのサーバを爆破します。
丸谷は、しばし呆然としていた。
爆破? どういうことだ?
「丸谷君、どうしたんだ、なんと書いてあるんだ」
的場が焦れたように急かしてきた。
「おい、丸谷君、どんな文面なんだ」
丸谷は、脂の浮き出た額を、手で拭った。
軽々しく他言すべき内容ではない。しかし、どうしたら良いのか……。
「おい、丸谷君」
的場が、切羽詰まった声になった。
「今日、うちの社員がデータセンタに行ってるんだ」
「君のところの社員が?」
「そうだ、俺の直属の部下だ。頼む、話を聞かせてくれ」
丸谷は、さっきカメラに映った、頼りなさそうな若者を思い出した。あれが的場の部下だろうか。
的場の切迫した声に押されて、丸谷はつい口走った。
「返事がもらえなければ、サーバを爆破すると言ってきた」
「爆破だって?」
的場が絶句したのが分かった。
「いや、向こうがそう言っているだけだ。事実かどうかは、まだ……」
丸谷はしどろもどろになった。
爆弾犯がデータセンタの中に潜んでいる、そんなことがあり得るだろうか。
「丸谷さん」
前方を見つめていた女性社員が、振り返った。
「アラートがどんどん増えてます。どうしたらいいんでしょう」
「……悪いが、また後で連絡するから、ちょっと待ってもらえないか。こっちも手一杯なんだ」
「分かった。状況は分かったが、そのメールをこっちにも転送してくれないか。部下の命がかかってるんだ。俺も、なんとかして連絡を取ってみる」
的場の電話が切れた。
ともかく時間を稼がなければならない。
丸谷は、しばらく考えてから震える指で、返事を打った。
現在社内で相談中ですが、早朝で責任者に連絡がつきません。
この時間帯では、送金も不可能です。
朝まで待ってください。
メールを送って間もなく、返信が来た。
文面を見た丸谷は、今度こそ言葉を失った。
犯人から返ってきたのは、こんな回答だった。
責任者ともあろうものが、呑気に高枕ですか?
危険があると分かっていながら、なぜ事前に手を打っておかなかったのでしょうか。
八時までに連絡いただけなければ、全てのサーバを爆破します。
データセンタの中にはデータのみならず、人質がいることをお忘れなく。
*第8回は5月1日(金)公開予定です。なお本作はフィクションで、登場人物、団体等、実在のものとは一切関係ありません。
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