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『クラウド・トラップ SE神谷翔のサイバー事件簿3』 無料試し読み

2015.04.28 公開 ポスト

『SE神谷翔のサイバー事件簿3』

vol.7 サーバ爆破予告七瀬晶


 丸谷は、メールの中身を確認した。

 

お返事がいただけず残念です。
アルティメイトクラウドのデータには、さほどの価値もないようですね。
このまま無視されるようなら、全てのサーバを爆破します。

 

 丸谷は、しばし呆然としていた。
 爆破? どういうことだ?
「丸谷君、どうしたんだ、なんと書いてあるんだ」
 的場が焦れたように急かしてきた。
「おい、丸谷君、どんな文面なんだ」
 丸谷は、脂の浮き出た額を、手で拭った。
 軽々しく他言すべき内容ではない。しかし、どうしたら良いのか……。
「おい、丸谷君」
 的場が、切羽詰まった声になった。
「今日、うちの社員がデータセンタに行ってるんだ」
「君のところの社員が?」
「そうだ、俺の直属の部下だ。頼む、話を聞かせてくれ」
 丸谷は、さっきカメラに映った、頼りなさそうな若者を思い出した。あれが的場の部下だろうか。
 的場の切迫した声に押されて、丸谷はつい口走った。
「返事がもらえなければ、サーバを爆破すると言ってきた」
「爆破だって?」
 的場が絶句したのが分かった。
「いや、向こうがそう言っているだけだ。事実かどうかは、まだ……」
 丸谷はしどろもどろになった。
 爆弾犯がデータセンタの中に潜んでいる、そんなことがあり得るだろうか。
「丸谷さん」
 前方を見つめていた女性社員が、振り返った。
「アラートがどんどん増えてます。どうしたらいいんでしょう」
「……悪いが、また後で連絡するから、ちょっと待ってもらえないか。こっちも手一杯なんだ」
「分かった。状況は分かったが、そのメールをこっちにも転送してくれないか。部下の命がかかってるんだ。俺も、なんとかして連絡を取ってみる」
 的場の電話が切れた。
 ともかく時間を稼がなければならない。
 丸谷は、しばらく考えてから震える指で、返事を打った。

 

現在社内で相談中ですが、早朝で責任者に連絡がつきません。
この時間帯では、送金も不可能です。
朝まで待ってください。

 

 メールを送って間もなく、返信が来た。
 文面を見た丸谷は、今度こそ言葉を失った。
 犯人から返ってきたのは、こんな回答だった。

 

責任者ともあろうものが、呑気に高枕ですか?
危険があると分かっていながら、なぜ事前に手を打っておかなかったのでしょうか。
八時までに連絡いただけなければ、全てのサーバを爆破します。
データセンタの中にはデータのみならず、人質がいることをお忘れなく。

 

 

*第8回は5月1日(金)公開予定です。なお本作はフィクションで、登場人物、団体等、実在のものとは一切関係ありません。

 

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七瀬晶

1974年生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。インターネットで連載したサイバーパンクSF「Project SEVEN」が多くの読者の支持を得、出版デビュー。現役SEとして働きながら執筆を続ける。著書に本書を含む「神谷翔のサイバー事件簿」シリーズの他、「WEB探偵 昴」(アルファポリス)、「こころ 不思議な転校生」シリーズ(角川書店)などがある。

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