◆すべてを徹底的に観察して分析して理解するという哲学
関根 取材が質量ともに抜きん出ているのは言うまでもないのですが、もう一つ、鈴木さんには、自分の取材のフィールドのネタ以外にも、あらゆる現実が本当はどうなっているかを何でも観察して分析して理解しようとする。そういう哲学があると思います。たとえば犯罪に使う車を書くときは、車の部品がどう動くのかまで、全部調べるんですよ。
――それで『ギャングース』は、車の構造の説明が、とてもマニアックなんですね(笑)
関根 実はそこが鈴木さんの世界の哲学であり、魅力です。『家のない少年たち』では、少年たちが何を考えてこのタタキ(窃盗)をやったかまで、ものすごく順序立てて書いてあるんですよ。この倉庫は警備会社と契約しているけど、警備会社は連絡を受けてから現場に来るまで5分ぐらいかかるから、近くの別のところで1回警備を呼んでおいて、その隙にタタくんだとか。そのとき履き物は何かとか、何を用意していくとか、どんな車に乗るかとか、全部、本に書いてあるんです。それはやはり鈴木さんが常にそういう考え方をしていて、観察しているからでしょう。そのことが非常にスリリングな迫力を生んでいる。
それで漫画のなかにも「すずきメモ」という解説を入れてもらうようにしたんです。「漫画のなかにこんなに文字情報を入れるのは反則だ」と鈴木さんご自身も反対されていたんですけど、漫画の展開のなかで、その人物が何を考えてこういう行動をしたのか、その背景になる事実関係がどんなものなのかを知ると、漫画が何倍も楽しめる。
――多いときは、1見開きに3個も「すずきメモ」が入ってます(笑)。
関根 そうです。ちょっとしつこいですか?
――いえ、ウラ社会の勉強になります(笑)。私も鈴木さんの執拗と言っていいほどの探究心が、鈴木さんならではの作品世界を生み出していると思います。『最貧困女子』は文字だけのルポですが、まずはこんな豊かな日本で、こんなに悲惨な状態に置かれている人たちがいるという現実を可視化したいという、社会的な使命感がある。それにプラスして鈴木さん独自の冷静な観察眼がある。その両輪でみごとな作品になっていると思います。
関根 そうなんです。つらい状況の描写だけでは、救いも見えてこない。でも鈴木さんはニッチな事実関係をしっかり書く。具体的にどんな心ない言葉を投げかけられたのかとか、住民票を移していないから生活保護を受けられないとか、貧困に至るプロセスのディテールを徹底的に書き込む。だからこそ希望を抱けるというとおかしいかもしれませんが、何をしなきゃいけないのかが見えてくるんですよね。私なんかが言うことじゃないんですけど、まさに「神は細部に宿る」。
――それがルポライターとかノンフィクションライターの方の仕事だと思うんですが、鈴木さんの場合、その解像度みたいものが人一倍細かいというか、高い。