つき詰めた先に等身大の清美がいた
-ゲッツさんは、ヒロインの清美役に大きな思い入れがあると思うのですが、清水さん演じる清美はいかがでしたか?
ゲッツ もう、ぴったりでした。さすがだなと。肝が据わっている様子が画面から伝わってきましたね。
清水 今まで元気で明るい役が多くて、清美役のようなクールで色々と世界を見た感じの役が初めてだったので、これはかなり中身を詰めないとやばいぞって思ったんです。
「自分の屋台をどれくらい大切に思っていたのか」「猛身とはいつからそういう(身体を許す)関係で、どれくらいで屋台をもらえたのか」とか、時系列で考えたりしていて。そうした作業は初めてでした。
ゲッツ それはすごい!
清水 「やってみろよ、くされが!」とかの荒々しいセリフも初めてだったので、これは心から出た言葉じゃないとちょっとイタい感じになるだろうなと。
「チンピラたちが度々来るから、清美はナメられないようにわざとこう言うようにしてるんだ」って理由付けをして。そんな風に詰めていきました。
ゲッツ テキ屋の指導してくれたおっちゃんたちからも、色々と話を聞いてましたよね。
清水 テキ屋のおっちゃんたち、ちょっといかつくて、すごいエロいんですよ。変なこと聞いてきたりとか、ちょっとセクハラ?のような…(笑)
ゲッツ そんなおやじが?!
清水 そこで思ったんですよ。清美は、こういうのにも慣れてるんだなって。
ゲッツ なるほど。そういう実感があるからリアルなんですね。テキ屋で会ってから、最後にふたりで雨の夜道を歩いているシーンとか、ほんとにわざとらしさが全然ないですよね。すごいなって思って。
-清美さんと自分が似てるところってありますか?
清水 まったくないって思ってたんです。「自分は子どもだな」って思ってて。でも突然「私、コーイチみたいながむしゃらで突っ走ってる男の子を離れているところから見れるな」って気づきました。「頑張れー!」っていう気持ちになることができるんです。
-ここは違うな、というところは?
清水 いくらお店を守るからって、あんなに強くいられないかな。誰か呼んじゃう。「自分で守る」って、そんなに肝は据わってない。清美は人生割り切ってる感じがあるじゃないですか。私はまだまだ悩みが多くて、割り切れないというか。
ゲッツ そんなの、普通は割り切れないですよね。本物の清美は自分が日本籍じゃなくて、自分が何かやると上のほうのテキ屋に睨まれて仕事から外されちゃって、親にも迷惑がかかって…って頭と体で分かっているんだよね。でも日本人で普通の生活をしていたらそんな気持ちになれない。
清水 そうなんです。設定が「身体を売ってでも自分の屋台を守る」というものだったので、どのような環境で育ったらそんな気持ちになるだろうって、考えていました。なので「小さいころから貧しい家庭で育つ」という設定を作って、1階はお好み焼き屋で2階は身体を売るところになっていて。小さい頃から親に「こうやってないと私たちは生きていかれないから」って言われて育ったんだと勝手に設定しました。
ゲッツ すごい作りこんでる(笑)
清水 あきらめとは違って、割り切っているなかでも小さな幸せを見つけていくんだと思います。板谷コーイチと出会ったときは、そういう小さな幸せの時間だったと思うんですよね。
-初めてのキスシーンとのことですが、どういう気持ちで臨まれましたか?
清水 キスシーンの日が近づくにつれ「どうしよー、人前でキスなんてできないよー」って。家で練習しましたね。ぬいぐるみにずっとキスしてたんですけど、実際は生身の人間だし、意味なかったですね(笑)
ゲッツ そんなことしてたんだ(笑)
清水 当初は「キスしてそのまんまフェードアウト」「ものの5秒」って聞いてたんですけど、現場に入ったらキスシーンがすごく長くて、初めは「マネージャーさん止めに来てー」って思ってました(笑)
でも、監督やスタッフさん全員が「撮るぞ!作るぞ!」って雰囲気で。「映画ってこういうものなんだ、作り始めたら誰も止められない、もうなんでもやろう」って思いました。結局、そのシーンだけで1時間くらいかかりました。何回か撮りなおしたし、動きの練習もすごく長かったですね。
「ズタボロ」対談
今年5月9日、映画「ズタボロ」が公開されます。それを記念して、原作『メタボロ』『ズタボロ』(幻冬舎)を執筆されたゲッツ板谷さんと、ヒロインの清美役を演じ当サイトでも連載「たぎりにぎり」をもつ清水富美加さんの対談をおこないました。笑い溢れるお二人の対談、全2回に分けてお届けします。(文、写真:伊東朋夏)