●ことごとく、母が嫌いそうな生き方を選んでしまう
鈴木 2つのストーリーを読みながら、母の同級生の娘さんを思い出しました。私とはまた違うタイプの問題を起こす子で、絶妙なタイミングで病気になったり、恋愛体質で学校をやめちゃったり。うちの母は「あの子は、母親の愛を確かめたくてああいう問題を起こしている」と分析してました。その母娘に比べると、うちの母は私に対して「愛してる」というパフォーマンスはするから、私は愛情を実感しやすい環境にあるうえで、「あなたはどれだけ破滅的なことをしても私の愛が崩れないかを試すために問題を起こしてるのね」と母から言われました。
唯川 娘としてはどう? 試してるの?
鈴木 お母さんが悲しむかどうかを試すためにダメな男と付きあおうなんて思ってないし、お母さんにそんなに自意識過剰になってほしくないですけど、ちょっと深いところでは、そういう気持ちがなくはないのかなって。例えば、「ホステスは大丈夫だろうけど,AV女優をやったらどういう反応をするんだろう?」というスリルを感じつつ愛を知る、みたいな。
唯川 ホステスからAV女優になったんでしたよね?
鈴木 キャバ嬢のバイトをしながら学生やって、AV女優やって、愛人とか接待要員とかをやりつつ銀座のホステスやって、日経の記者やって……って感じなんですけど、ことごとくお母さんが気に入らなさそうな生き方を選んでしまうんです。高校生の頃、個性もなにもないコギャルの世界に邁進してルーズソックスや茶髪を先生に怒られたときも味方になってくれなかったし。
唯川 お母さんはあなたにどうしてほしかったのかな?
鈴木 彼女の言うことから推測するに、アーティストのようにクリエイティブでありながら芸大の教授のように安定もしていてなおかつ権威ある仕事について欲しかったんだと思います。学者の大学教授とか。
唯川 それがまさに、お母さんが歩みたかった人生なんでしょうね。千遥のお母さんのように、「あなたのために自分の人生を諦めた」みたいなことを言われたことはある?
鈴木 その言葉は最後の禁じ手だから、ストレートに言うのはダサいと自覚しながらも、たまに滲ませてくる感じです。
唯川 娘に対しては、たまには出ちゃうだろうな。鈴木さんは、お母さんが内心で何を思っているかは大体想像がつくのね。
鈴木 なんとなく想像しながら生きてきました。周りくどく言いながら、内心では「私はあなたのために色々なことを諦めたのに、あなたは私のために何もしてくれないのね」って思ってるんだろうな、とか。もちろん感謝してないわけじゃないし、母は仕事人だったから私がいなかったら活躍の場があったんだろうなと思いつつ、「産みたくて産んだんだから、私にそんなこと言われても……」ってなってしまう。
唯川 それはそうね。ただ、母親は娘に何かをしてほしいというよりも、「お母さんも頑張ったんだよ」ということをわかってほしいし認めてほしいんだと思う。私も娘の頃は「お母さんが自分で選んだんでしょ」と思っていたけれど、今は、口先だけでも「ありがとう」って言っておけば母は満足したんだろうなと思う。それを言うと負けのような気がして、言えなかったけど。