『料理の鉄人』など数々の名番組を生み出し、小説『歪んだ蝸牛』では嫉妬と欲望が渦まくテレビ業界を活写したテレビプロデューサー田中経一さん。野心とプライドを胸に秘めた女子アナたちを主人公に、初めての小説『わたしの神様』を上梓した小島慶子さん。
意外にも初対面だという二人の対話は、「今日、来るのを辞めようかと思った」という田中さんの衝撃告白から始まり、すぐに盛り上がって丁々発止のテレビ論に。そして、そこから見えてきたのは、業界の枠を超えた、「これからの男と女の働き方」「生き方」なのでした――。
女の欲望と男の本音が炸裂するお二人のトークを、全3回でお届けします。第2回は、テレビ業界の人でなくても、皆からめとられている、「見て見られる関係」をめぐって……。
「自分はニッチらしい」と気づいて、楽になりました(小島)
田中 今日どうしてもお聞きしたかったのは、小島さんは、最初はまあおとなしい、普通の局アナだったわけじゃないですか。モデルチェンジしたのはラジオに出演されるようになってからですか。
小島 あははは、モデルチェンジに見えますかね。
田中 モデルチェンジじゃないんですか? おっかない人にモデルチェンジしたように見えました。
小島 私、新人アナ時代って何か面白いこと言わなきゃいけないんじゃないかと思い込んでいたんですよ。
田中 え? 新人時代からですか。
小島 入社したときからです。同期のアナウンサーが女3人で、爽やかなお嬢様系と、天然ボケのかわい子ちゃん系がいたから、じゃ、私は個性派路線がいいのかなと。だから、普通に「こんにちは」と挨拶すればいい場面でつまらないツッコミをいれてみたり。
田中 あらら。当時は女子アナに対して、そういう需要はなかったような。
小島 そう、誰もそんなこと求めてない。しかも、うまくできるわけでもない。つまんないうえに面倒くさい。そんなアナウンサー、誰も使いたくないですよね。
田中 はぁー。逸材だったんだ、小島さん。
小島 最初は勘違いして、これが認められるんじゃないかと思っていたんですけど、それこそモニターで見ると、違うと自分でもわかるわけですよ。
田中 そういうイタいアナウンサーを何年ぐらい続けていたんですか。
小島 入社してから3~4年目までずっとそんな感じでした。
田中 だいぶ続けちゃいましたね。
小島 はい。屈折しきって、なんかもう、「女子アナとか全然興味ないっす」みたいな態度を取り続け……。レッドウィングにデニムと迷彩のフリースで、黒いリュック背負って、ベリーショートの髪にすっぴんで現場に「ちぇーす」って入って技術さんとしか話さない、みたいな。
田中 うーん、それは困った。
小島 スタッフは、「うわ、今回、小島かよ」って。完全に外れくじ扱いです。でもあるときラジオをやったら、たまたまハマったんですね。つまり、アナウンサーというのは発表係なので、書いてあるとおりにやらないと発表にならないじゃないですか。でも、ラジオで求められるのは発表係ではなく、話しかけるという役割。それにたまたま私の特性がハマった感じです。
田中 なるほど、モデルチェンジではなく、もともとそっちだったんだ。
小島 でも、自分ではやっぱりアナウンサーになったからには、「週刊文春」の好きな女子アナランキングに入りたいとか、「CLASSY」とか「25ans」から「人気アナ小島さんのカバンの中身を見せてもらいま~す」みたいな企画が来ないかなあとか思っていたんですよ。
田中 あははは。それじゃ『わたしの神様』まんまの女子アナじゃないですか。
小島 でも適性もないし、需要もないし。で、ある日、気づいた。どうやら私は、ニッチらしい。もう「人気アナであるべき」とか、「全方位的人気者であるべき」とかいう「であるべき」をやめて、ニッチなりに人に喜んでもらえればいいかなと思ったあたりから、ちょっと楽になってきました。