生涯一ディレクターでいたいか、社内出世を選ぶか?(田中)
小島 ディレクターの皆さん、ほら、毎年やっているじゃないですか。今年の新人のあいつは伸びるだの、オレが最初に目をつけただのと。
田中 まあ一応、チェックはしますよね。これから使いたいなというのは早めに見て決めておきますけど。
小島 大して親しくないのに、女子アナをファーストネームで呼んだりする。「なあ、まゆみ、まゆみ。おまえが新人のときさ……」とか言って、実はほとんど一緒に仕事してないので言われた女子アナ側は当惑気味というのは、よく見る光景ですよね。
田中 そうそう。飲み屋にいます、そういうチームが。
小島 でも、女子アナはみんな、「そうですよねえ」ってちゃんと応じる。大人ですよね、相手の顔を立てて、「え、いつ一緒に仕事しましたっけ」なんて絶対言わない。
田中 確かに、女子アナの方たちはよくできた人たちです。
小島 でも、会社員としてちゃんとしてなくちゃいけない部分と、出演者としていいパフォーマンスをしなくちゃいけない部分が調和するところに着地できている人は本当に少ない。そこで悩んで、苦しそうな人が多い気がするんですよね。
田中 辞めてから、実は悩んでいたと言われることが確かによくあります。
小島 ディレクターは、社員ディレクターの場合、どんなに「クリエイティブっていうのはさ」とか語っても、翌日辞令が出て営業になったりするじゃないですか。
田中 そうです、そうです。
小島 社員ディレクターは所詮はごっこ、みたいに見えちゃうんでしょうか。
田中 いや、そこまでひどくは言えませんが。
小島 いわゆる職人ディレクターではなく、辞令一つで飛ばされる会社員なんだというところがどこかコンプレックスになっていたり、俺は企業の人間なんだからというコンプレックスの裏返しのプライドになっていたりという、社員ディレクターならではの屈折を、薄っすら感じていたんですけど。
田中 うん、それはありますよね。だから面白おかしい人事があるのかなと思うぐらいですよ。例えば、編成や制作でブイブイ言わせていた人たちが、いきなりコンテンツ部に行きますとか、広報に行きますとかいうことがある。あれだけ自宅にタレントさんを呼んだり、自分の子どもの誕生日に芸人さんを呼んだりしていた人たちが、異動になったぞ、ざまあみろ、みたいなことがあるんだろうな。そのやっかみがいろいろ人事に反映しているんだろうというのは感じます。僕はフリーランスなので、勝手にディレクターを名乗っていれば生涯ディレクターでいられるからいいですけど、社員の方はなかなか大変だろうなと思いますよ。
小島 自分は辞令一つで異動させられてしまう、所詮はただの会社員なんだと言われるであろうことに自意識過剰になって、自分はただの会社員じゃないんだぞという破天荒さとかヤクザっぽさとかを言いたがってしまう。そういう苦しみはアナウンサーにもあって、アナウンサーの中には、「俺たちはタレントと勝負してんだ」と、やたら言いたがる人もいるわけです。
田中 まあまあ、うん、そうですね。
小島 いや、勝負してないだろう、給与体系違うし、向こうも敵とは思ってないしと、私は思っていたんです。自分たちはただの会社員じゃないんだって、そんなにしつこく言いたいんだったら、会社を辞めればいいのにって。
田中 半分、売れかけている人たちというのがいるんですよ。売れるとパーンとフリーになるわけですが、ちょっと売れ始めて、出演すれば数字(視聴率)の取れるアナウンサーがいると、局のプロデューサーもそのアナウンサーを囲い始めるんですね。ほかの番組に出さないようにし始める。そうなると、囲われたアナウンサーは、「あ、俺はもうフリーでやっていけるのかな。そうしたら給料が10倍、20倍になるぞ」というふうに迷い始めるんです。僕もそうした例をいくつか見てきました。結局、フリーにならず、出世した人もいるし。人生いろいろです。
(構成:小峰敦子 写真:隼田大輔)
*第3回「『女性は愛玩品』マインドでは、男も女も幸せになれない」は、8月20日(木)に公開予定です。