スタジオも編成部も男ばかりだから、時代からズレていく(田中)
小島 テレビ業界がコテコテの男社会だということも問題ではないですか。やっぱり女性はどこか愛玩品とか、見せ物とか、男社会に何かを添える存在として機能してほしいというマインドを感じるんですよね。もちろんそれはテレビ局に限ったことではないのでしょうが。
田中 あると思います。でも、それはマーケティング的にはおかしな話なんですよ。今、企画書を作る際に、F2(女性35~49歳)向きに番組を作りなさいと言われるわけですよ。だったら、F2の思考がわかる制作者が作ったほうがいいし、F2たちが共感するような出演者たちが出ればいいのに、相変わらずスタジオの中は男ばかり、サブ(副調整室)も男ばかり。なんでそこが変わんないのかなと思いますけどね。
小島 『あさイチ』(NHK)の調子がいいですよね。あの番組のスタッフは女性が多いそうです。朝ドラのあと、いきなり紅葉をバックに真っ赤な字で「閉経」とダーンと特集タイトルが出たのを見たときは、感動しました。そんなことを朝からやるのは、それをギャグとしてではなく、真剣に当事者マインドで作っているからでしょうね。
田中 うん、「私はおばちゃんなんだ!」と言いまくって番組を作るのは、実に正しい。民放にも何人か頑張っている女性のプロデューサーがいますよ。彼女たちがもっと番組を作ればいい。
小島 「この破天荒でデタラメで、だけど面白くて天才的な俺たちがテレビを作るのさ」的な物語にまだすがっているような気がします。
田中 それこそ編成部なんかも男ばっかりですよ。それは完全に営業のマーケティングからはズレていることだから、素直に女性にもやらせてみればいいのにと思いますけどね。僕の制作会社では女性の放送作家が増えてます。
小島 あ、そうですか。女性視聴者の実感に寄り添うことを重視していらっしゃるんですか。いわゆるおばちゃん感覚とか、世代ごとの生活感とか。
田中 うん、それを入れないとダメですよ。そうしないと、番組作りの方針、狙いからズレていく。小説にも書きましたが、視聴率の取り方にしても、世帯視聴率ではなく個人視聴率でやらないと、時代に合わなくなってくるわけなんです。
小島 そうですね。『歪んだ蝸牛』の主人公・五味プロデューサーだって、こうまで必死な思いをして番組をつくっているのかと思いますよ。視聴率によって巨額のお金が動き、様々な人生が狂うじゃないですか。そのわりに、根拠となる視聴率のデータのとり方がめちゃくちゃ脆い。
田中 そうなんです。体操に置き換えて考えると、日本は総合で金メダル獲ろうとする。中国は吊り輪とか、あん馬とか、部門別で獲ろうとする。テレビは吊り輪とかあん馬で金メダルを獲りにいかなくてはいけないはずなんです。月曜夜9時からのこの1時間は、F2の1位はTBS、F1(女性20~34歳)の1位はフジテレビでしたというふうに、個人別視聴率を取れば、スポンサーは喜んでそれを買いにきますよ。
小島 そのほうがスポンサーに対して親切ですよね。私がもし尿漏れパッドを売りたいんだったら、10代が観ている番組にはお金出しても無駄なんで、それはF2以上の層が観ている番組を買いにいきますよね。
田中 そうです。それをやると、番組が画一的にならず、いろいろな番組が生まれてくる。
小島 まさに田中青年の言った価値の細分化!
田中 いいですって、それは。恥ずかしいから忘れてください(笑)。そういった意味ではNHKのほうが主婦とか子どもとか、それぞれの層に向けた面白い番組を作っている。民放よりもちゃんとした番組を作っているという感じがしますね。
小島 Eテレなんか、キレキレですものね。
田中 そうです、そうです。民放もどこかで振り切らないと、まずい。世帯視聴率に怯えてなかなか踏み出しませんが、振り切るということでもしないと、小説に出てくるような野望とか野心とかも持ちようがない。ズルズル衰退だけしていく。
小島 見たいです、例えばほかの人にとってはどうでもいいけど、40代には大ウケみたいな番組、見たいです。
田中 『あさイチ』のヒットについては、イノッチ(司会の井ノ原快彦)も偉いけど、番組の内容分析もしっかりしないといけませんね。