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沖縄のことを教えてください

2015.09.15 公開 ポスト

第1回

「癒しの島」「基地の島」のステロタイプから離れて青木理/初沢亜利

 米軍・普天間基地の辺野古への移設の是非をめぐって、沖縄県と国は8月中旬から集中協議を行ってきましたが、協議は平行線のまま9月7日に終了。国は12日に中断していた移設作業を再開、これに対して沖縄県の翁長知事は、14日、辺野古埋め立ての承認を取り消す手続きに入ったと発表しました。
 沖縄県と国の対立が緊張を増した戦後70年の夏、写真家の初沢亜利さんが、『
沖縄のことを教えてください』(赤々舎)という写真集を出版しました。私たち本土の人間は、沖縄の問題をどう理解し、日本全体の問題として受け止めるべきなのか。新刊の写真集を糸口に、沖縄の問題をたびたび取材してきたジャーナリストの青木理さんと、語り合っていただきました。
 北朝鮮・沖縄とフィールドが重なるだけでなく、新宿某飲み屋街の盟友でもあるお二人ですが、あらたまって対談するのは、実は今回が初めて。編集部もやや緊張の面持ちで臨んだところ、冒頭でいきなり「おねえちゃん」談議に。編集部の緊張は、「大丈夫だろうか、この対談」という不安に転じたのでしたが……。
                               (構成・小峰敦子)

◆おねえちゃんの写真が少ない!?

初沢 今日は長野・諏訪の印刷所からできたてほやほや、写真集『沖縄のことを教えてください』の試し刷りを持ってきました。

青木 諏訪はクルマで行ったの? 赤いGT‐Rだったよね。

初沢 GT‐Rは売っちゃったんです。売れるものはみんな売りました。東京でのカメラマン生活を一切休止して、1年間、沖縄で暮らすために相当切り詰めたんですよ。那覇市内のアパートは家賃4万円で借りられるけど、家財道具を揃えなければいけない。そういうものが備え付けられたマンスリーマンションは、ひと月に8~9万円もかかる。そこで、ひと月6万円のカプセルホテルにずっと住んでいたんです。
 沖縄に着いた翌日に、配達用によく使われる中古の三輪バイクを買ったんです。後ろのボックスにカメラバッグ、パソコン一式を入れたバッグ、三脚、衣類を詰め込んであちこち走り回りました。50ccのバイクは高速を走れないから、那覇から辺野古までの約60km、ずっと一般道をトコトコ行きましたよ。でもその速さでずっと走っていたら、島内の距離感や島全体の形が、身体感覚として、自分のなかに形作られていきました。

青木 これまでの亜利君の写真集と比べると、ルポ色が強くなっているね。第一印象は、おねえちゃんの写真が少ない。

初沢 おねえちゃんの写真、自分がセレクトした中には結構あったんですけど、赤々舎の社長の姫野希美さんに魂胆を見破られてしまった。「これ、女の子がカワイイということ以外に何の意味があるの?」と質されて、何も言えなかった(笑)。それで何枚もボツになっています。

青木 亜利君が、この子がカワイイとか、この子はタイプだとか、そういう見方をするからでしょ?

初沢 どのおねえちゃんの脚がキレイかとか。

青木 そんなこと言うから社長に怒られるんだよ。上智の社会学科ではジェンダーのゼミだったんだって? 亜利君とジェンダーって一番合わないと思うけど(笑)。

初沢 かなり熱心に勉強しましたよ。

青木 僕は自分の限界を多少認識してるから、そんな世界には絶対近づかないけど(笑)。

初沢 今度の写真集に、青木さんのタイプの女の子はいました?

青木 いないよ、そんなの。だいたい僕は、女性をそんな目で見ない(笑)。

初沢 あ、やらしい。青木さん、最近逃げるの上手いからな。で、マジメに聞こう。写真の感想はどうですか?

青木 おねえちゃんの写真が少ない。

初沢 それしかないんですか?

青木 マジメにそう思うんだよ。たとえば、前作の北朝鮮の写真集『隣人。38度線の北』(徳間書店)には、おねえちゃんの写真がふんだんに収められていた。北朝鮮をテーマにした写真集は、堅くて政治臭が強くて、あまりおもしろくないのが多いんだけど、亜利君の写真集では水着姿のきれいな女性が目を惹いて、しかも乳首が透けてた。

初沢 乳首が透けて、わき毛が生えている。

青木 (笑)。でも冗談抜きで、あれは一種のスクープ写真だと感じて驚いた。

初沢 乳首が透けているっていうことは、グラビア的カテゴリーとしてはセミヌードですからね。世界初の北朝鮮セミヌードってことか。

青木 それもあるけど(笑)、ああいう写真はステロタイプ化された日本の北朝鮮像をひっくり返す。大切なことだよ。

初沢 北朝鮮にも、こんなカワイイ子がいるんだって。

青木 カワイイ子もいるし、懸命に生を紡いでいる人たちがいる。当たり前だけど、圧政下でも人間が生きているんだ、という事実を瞬間的に気づかせてくれる。

 

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青木理

1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。慶應義塾大学卒業後、共同通信に入社。社会部、外信部、 ソウル特派員などを経て、2006年に退社しフリーに。テレビ・ラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『日本の公安 警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ―徳田虎雄 不随の病院王―』(小学館文庫)、『増補版 国 策捜査―暴走する特捜検察と餌食にされた人たち』(角川文庫)、『誘蛾灯―鳥取連続不審死事件―』『抵抗の拠点から 朝 日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)、『青木理の抵抗の視線』(トランスビュー)などがある。

初沢亜利

1973年フランス・パリ生まれ。写真家。上智大学文学部社会学科卒業。イイノ広尾スタジオを経て、写真家としての活動を開始する。第29回東川賞新人作家賞受賞。写真集に、イラク戦争前後の市民の生活を撮影した『Baghdad2003』(碧天舎)、東日本大震災翌日から一年を追った『True Feelings -爪痕の真情-』(三栄書房)、北朝鮮写真集『隣人。38度線の北』(徳間書店)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)がある。

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