1. Home
  2. 社会・教養
  3. 沖縄のことを教えてください
  4. 「癒しの島」「基地の島」のステロタイプか...

沖縄のことを教えてください

2015.09.15 公開 ポスト

第1回

「癒しの島」「基地の島」のステロタイプから離れて青木理/初沢亜利

◆辺野古が全国的なニュースになった時期の記録

青木 沖縄の写真集も世間にはいっぱあって、それらの多くは視点がパターン化しがちでしょう。癒しの島、青い海。あるいは基地問題といった報道の視点で。

初沢 そうなんです。撮る側だけじゃなくて、見る側も対象をカテゴライズしたいから、今度の僕の写真を見て、「えっ、何を伝えたいの?」と戸惑う人がけっこういるんですよ。

青木 基地反対運動もあれば、キャバ嬢もいれば、オカマバーもあれば、辺野古の海もあり、独自の文化もあれば、選挙もある。だからこそ本気で思うんだけど、その中に亜利君の真骨頂である「おねえちゃんの写真」がもっとあってもいい。
 たとえば、女子高生が向かい合っている写真、すごくいいよね。笑顔の女の子たちの写真も亜利君らしい。僕は写真は素人だけど、初沢亜利はこういう女の子を撮らせたら日本屈指のカメラマンだよな。

写真を拡大
就職活動中の専門学校生、那覇国際通りのスターバックスコーヒーにて。


初沢 こういう写真は今まで誰も撮ろうとしてこなかったんです。スターバックスにいるリクルートスーツを着た女の子。こんな全国どこでも目にする絵をわざわざ沖縄では撮らない。写真を見ただけじゃ、国際通りってわからないし。そこを意図的に可視化するということをやってみたわけです。リクルートスーツって日本の全体主義の象徴でしょ? それが沖縄にまで浸透していることを目の当たりにして、当然と言えば当然だけど、残念な感じもしました。

青木 で、最後の1枚が、「2015年5月17日」。

初沢 3万5000人の県民大会。「屈しない」と、県民があらためて辺野古新基地建設阻止の意思表示をしました(*1)。
 

写真を拡大
那覇セルラースタジアムで開催された県民大会。3万5000人が集結し、辺野古新基地建設阻止の意志を確認した。2015.5.17


青木
 今までの写真集よりルポ色が強くなっているというのは、この最後の1枚もそうだけど、ニュースの現場をひと通り押さえているからだよね。亜利君が滞在した1年は、まさに沖縄発の大ニュースがメディアを埋めた時期だった。別の写真では仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)前知事もいるし、翁長雄志(おなが・たけし)知事も写っている。

初沢
 大変な1年になりましたからね。僕が沖縄入りしたのが2013年11月。仲井眞さんが辺野古埋め立てを承認しそうな気配は既にあったし(*2)、年明けに名護市長選があることも、11月に知事選があることもわかっていた。そして2015年から始まる予定だった辺野古沖のボーリング調査が、知事選の争点になるのを避けるために前倒しされて、2014年8月から始まった。しかし、知事選では埋め立てを承認した仲井眞さんが敗れ、「辺野古に新基地はつくらせない」という公約を掲げた翁長さんが10万票の大差をつけて勝った。 「新基地建設反対」という民意が明らかなのに工事を続けるのは、地方自治の観点からも問題があるということで、この頃からようやく辺野古が全国的なニュースになりました。

青木 そんな時期の沖縄を亜利君のような写真家が記録したのは大切なことだよ。
 

*1 国は普天間基地の辺野古への「移設」と言い、メディアもそう報ずることが多いが、辺野古で計画されているのは、たんなる代替施設でなく大幅に機能を拡充した基地であり、実際は「新基地建設」である。

*2 当初、普天間基地の条件付き県内移設を容認していた仲井眞氏は、条件付き県外移設に立場を転じて2期目の知事選に当選。しかし再び立場を転じて、2013年12月に辺野古埋め立てを承認するに至った。

{ この記事をシェアする }

沖縄のことを教えてください

バックナンバー

青木理

1966年長野県生まれ。ジャーナリスト、ノンフィクション作家。慶應義塾大学卒業後、共同通信に入社。社会部、外信部、 ソウル特派員などを経て、2006年に退社しフリーに。テレビ・ラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『日本の公安 警察』(講談社現代新書)、『絞首刑』(講談社文庫)、『トラオ―徳田虎雄 不随の病院王―』(小学館文庫)、『増補版 国 策捜査―暴走する特捜検察と餌食にされた人たち』(角川文庫)、『誘蛾灯―鳥取連続不審死事件―』『抵抗の拠点から 朝 日新聞「慰安婦報道」の核心』(講談社)、『青木理の抵抗の視線』(トランスビュー)などがある。

初沢亜利

1973年フランス・パリ生まれ。写真家。上智大学文学部社会学科卒業。イイノ広尾スタジオを経て、写真家としての活動を開始する。第29回東川賞新人作家賞受賞。写真集に、イラク戦争前後の市民の生活を撮影した『Baghdad2003』(碧天舎)、東日本大震災翌日から一年を追った『True Feelings -爪痕の真情-』(三栄書房)、北朝鮮写真集『隣人。38度線の北』(徳間書店)、『沖縄のことを教えてください』(赤々舎)がある。

この記事を読んだ人へのおすすめ

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP