◆辺野古が全国的なニュースになった時期の記録
青木 沖縄の写真集も世間にはいっぱあって、それらの多くは視点がパターン化しがちでしょう。癒しの島、青い海。あるいは基地問題といった報道の視点で。
初沢 そうなんです。撮る側だけじゃなくて、見る側も対象をカテゴライズしたいから、今度の僕の写真を見て、「えっ、何を伝えたいの?」と戸惑う人がけっこういるんですよ。
青木 基地反対運動もあれば、キャバ嬢もいれば、オカマバーもあれば、辺野古の海もあり、独自の文化もあれば、選挙もある。だからこそ本気で思うんだけど、その中に亜利君の真骨頂である「おねえちゃんの写真」がもっとあってもいい。
たとえば、女子高生が向かい合っている写真、すごくいいよね。笑顔の女の子たちの写真も亜利君らしい。僕は写真は素人だけど、初沢亜利はこういう女の子を撮らせたら日本屈指のカメラマンだよな。
初沢 こういう写真は今まで誰も撮ろうとしてこなかったんです。スターバックスにいるリクルートスーツを着た女の子。こんな全国どこでも目にする絵をわざわざ沖縄では撮らない。写真を見ただけじゃ、国際通りってわからないし。そこを意図的に可視化するということをやってみたわけです。リクルートスーツって日本の全体主義の象徴でしょ? それが沖縄にまで浸透していることを目の当たりにして、当然と言えば当然だけど、残念な感じもしました。
青木 で、最後の1枚が、「2015年5月17日」。
初沢 3万5000人の県民大会。「屈しない」と、県民があらためて辺野古新基地建設阻止の意思表示をしました(*1)。
青木 今までの写真集よりルポ色が強くなっているというのは、この最後の1枚もそうだけど、ニュースの現場をひと通り押さえているからだよね。亜利君が滞在した1年は、まさに沖縄発の大ニュースがメディアを埋めた時期だった。別の写真では仲井眞弘多(なかいま・ひろかず)前知事もいるし、翁長雄志(おなが・たけし)知事も写っている。
初沢 大変な1年になりましたからね。僕が沖縄入りしたのが2013年11月。仲井眞さんが辺野古埋め立てを承認しそうな気配は既にあったし(*2)、年明けに名護市長選があることも、11月に知事選があることもわかっていた。そして2015年から始まる予定だった辺野古沖のボーリング調査が、知事選の争点になるのを避けるために前倒しされて、2014年8月から始まった。しかし、知事選では埋め立てを承認した仲井眞さんが敗れ、「辺野古に新基地はつくらせない」という公約を掲げた翁長さんが10万票の大差をつけて勝った。 「新基地建設反対」という民意が明らかなのに工事を続けるのは、地方自治の観点からも問題があるということで、この頃からようやく辺野古が全国的なニュースになりました。
青木 そんな時期の沖縄を亜利君のような写真家が記録したのは大切なことだよ。
*1 国は普天間基地の辺野古への「移設」と言い、メディアもそう報ずることが多いが、辺野古で計画されているのは、たんなる代替施設でなく大幅に機能を拡充した基地であり、実際は「新基地建設」である。
*2 当初、普天間基地の条件付き県内移設を容認していた仲井眞氏は、条件付き県外移設に立場を転じて2期目の知事選に当選。しかし再び立場を転じて、2013年12月に辺野古埋め立てを承認するに至った。
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