今年の6月、文科省が国立大学に対して文系学部の組織の見直しを求めた通知が、「文系軽視?」「文系廃止?」と騒がれ、いまだ波紋を呼んでいます。このことがきっかけで、「いま私たちに本当に役立つ勉強、本当に必要な勉強とは何なのか?」が、あらためて問われています。
そんな問いに、いま一番、明快に答えてくれる人のひとりが、60歳にして戦後初の独立系生保を開業した起業家であり、ビジネス界きっての読書家でもある、ライフネット生命株式会社代表取締役会長兼CEOの出口治明さん。
その出口さんの新刊『人生を面白くする 本物の教養』が9月30日に発売になります。刊行を記念して、本の読みどころを5回にわたってご紹介する、「出口塾」を開講します。
まず第1章「教養とは何か」からの抜粋です。
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教養とは何でしょうか? どうして人間には教養が必要なのでしょうか? もし、そう質問されたら、私の答えは「教養とは、人生におけるワクワクすること、面白いことや、楽しいことを増やすためのツールです」という一言に尽きると思います。よりワクワクする人生、より面白い人生、より楽しい人生を送って、悔いなく生涯を終えるためのツール、それが教養の本質であり核心であると私は考えています。
「あの人はすごい教養人だ」と他人に評されるかどうかなどは、どうでもいいことです。教養とは、人からの評価を高めたり箔(はく)をつけたりするためのものではなく、自分の人生をより彩り豊かにするためのものだと思います。ですから、教養を高めれば人生をもっとエンジョイできるのに、どうしてそうしないのか、という逆の問いかけもまた可能です。
日本人は、〝心の幅〞が不足しているように感じます。とくに戦後の日本人はそうではないでしょうか。焦土から立ち上がって、とにもかくにもアメリカにキャッチアップしなければという時代が長かったので仕方がない面はあります。だとしても、関心事が経済やビジネスに偏りすぎているように思えてなりません。
日本人も、かつてはもっと人生をエンジョイしていました。室町時代には奇天烈(きてれつ)な装束を身にまとった武士が大勢いました。「婆娑羅(ばさら)大名」や「傾奇者(かぶきもの)」と呼ばれた人々です。いまで言うパンクファッションです。日本人は元来、楽しむことが大好きな民族なのです。
戦後このかた、そういう感覚が追いやられすぎていたのではないでしょうか。人生をもっと楽しむ心があれば、人間的な幅が広がり、魅力がより醸成され、個人として熟成されます。突き詰めて言えば、教養とはそのためのツールにすぎないのです。
教養を身につけるには、ある程度の知識が必要です。教養と知識は、不可分の関係にあると言っても間違いではありません。しかし、勘違いしてはいけないのは、知識はあくまで道具であって手段にすぎないということです。決して知識を増やすこと自体が目的ではありません。
知識が必要なのは、それによって人生の楽しみが増えるからです。サッカーを知らなければテレビでワールドカップを放映していても面白くも何ともありませんが、サッカーを知っていれば最高の時間になります。知識はその人の興味の範囲を広げてくれます。それが「教養化した知識」です。
別に興味の範囲を広げようなどとは思わない、面白いことは一つあれば十分だという考え方もあるかもしれません。もちろん、それはそれでいいのですが、興味の対象が多ければ多いほど、本当に自分が好きなものや、打ち込めるものが見つかる確度が高まります。つまり、選択肢が広がるのです。自分が本当に好きなものは案外見つからないものです。面白いことが多いのは決して悪いことではないでしょう。
また、面白いことは一つで十分だと考えていると、食わず嫌いに陥る可能性があります。食べてみたらすごくおいしいと感じる食事であっても、食べてみなければそのよさは分かりません。
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このように、教養とは人生における面白いことを増やすためのツール。であるとともに、グローバル化したビジネス社会を生き抜くために不可欠であると、出口さんは言います。なぜでしょうか?
ようこそ「出口塾」へ! 「人生を面白くする本物の教養」をお教えします
いま私たちに本当に必要な勉強とは? この問いに、もっとも明快に答えてくれる人物のひとりが、60歳にして戦後初の独立系生保を開業した起業家で、ビジネス界きっての読書家でもある、ライフネット生命保険創業者の出口治明さんです。その出口さんの代表的ベストセラー、『人生を面白くする本物の教養』から、読みどころをご紹介する「出口塾」を開講します!