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  4. これだけは押さえておきたい時事問題

 60歳にして戦後初の独立系生保を開業した起業家であり、ビジネス界きっての読書家でもある、ライフネット生命株式会社代表取締役会長兼CEOの出口治明さん。
 その出口さんの新刊『人生を面白くする 本物の教養』が、好評発売中です。刊行を記念して、本の読みどころを5回にわたってご紹介する、「出口塾」を開講します。

 第4回は、時事問題について考えます。まずは第7章「教養としての時事問題―国内編―」から。出口さんは、「現代社会においては『選挙・民主主義』『お金』『税と社会保障』など、生活に直結する事柄について実践的な知識を学んでおかねばなりません」と述べたうえで、公的年金について、次のように解説します。

 ***

 公的年金も現代社会では重要なテーマです。

 あるとき、高校の先生と話をする機会がありましたが、公的年金については、例の三階建ての図を描いて教えているといいます。一階が基礎年金で、二階は厚生年金や共済年金、三階は企業年金だというあの図です。しかし、複雑なわが国の公的年金制度の解説をしたところで、実社会に出てすぐに役立つ「生きた知識」になるのでしょうか。むしろ社会保障は負担と給付が表裏一体であるという原理、原則や、国債を発行できる限り現代の政府は破綻することはないといった、現実問題としてもっと大切なところをしっかり教えておくべきです。

 公的年金は「超高齢化社会」(「高齢化社会」ではありません)に到達した日本において、人々の老後の「たつき」(生計の手段)となるものであり、「お金」の重要なテーマです。公的年金は、私たち一人ひとりの人生の後半の鍵を握っています。

 にもかかわらず、公的年金は日本社会の一大不安要因になっています。財政の累積赤字がじつに一〇〇〇兆円にも達していることもあって、このままでは政府が、なかでも公的年金が破綻してしまうのではないかという不安が高まっているのです。メディアでも公的年金破綻をテーマに据えた報道がなされていますし、専門家のなかにも警鐘を鳴らしている人がいるので、おそらく公的年金については相当多くの人が漠然とした不安を抱えているのではないかと思います。

 では、実際のところはどうなのでしょうか。

 日常の生活ではよく金融機関の営業職が、「国の年金は危ないですから、私的年金を押さえておいたほうがいいですよ」などと、自社で取り扱っている金融商品を薦めてきます。しかし、この営業職の言い分には根本的な矛盾があります。

 現在、日本の税収は約五五兆円です。それに対して歳出は約九六兆円もあります。税収が五五兆円しかないのに九六兆円も使えるのは、周知の通り、国債を発行しているからです。

 歳入不足を国債によって補っている図式ですから、国債が発行できれば財政は維持できるということになります。財政を維持できれば、公的年金も支払うことができます。つまり、政府が破綻しない限り、公的年金も破綻しない。国債を発行できる限り、公的年金の破綻はありえないということになります。

 ということは、公的年金が破綻するのは、国債が発行できなくなるときです。国債が紙クズ同然になってしまったときです。そのときには、日本は国家的危機を迎えています。当然、その営業職が属している金融機関は大量の国債を抱えて、それ以前に破綻しています。つまり、「国の年金は危ないですから云々(うんぬん)」という金融機関のセールストークは、論理的に成り立たないのです。おそらくその営業職自身、近代国家の基本的な構造を理解しないまま顧客に説明しているのでしょう。

 国債を引き受けているのは、どの国でも金融機関です。金融は信用の商売です。私たちが銀行に預金するのは、その銀行が大丈夫だと信用しているからです。それと同じように、銀行などの金融機関が国債を引き受けるのは、国を信用しているからです。私たちは金融機関を信用し、金融機関は国を信用するという、信用の入れ子構造のなかで生きているのです。

 したがって、近代国家においてもっとも信用できる金融機関はどこかと言うと、最終的には国ということになるのです。このことは百年以上も前に証明されています。その結果、近代国家では、国の格付以上の格付を、その国の金融機関が得ることはできないのです。

 公的年金の代わりに自分で預貯金を積み立てておこうと考え、国民年金の保険料を支払わなくなっている若者が増えているとも聞きます。しかし、いままで説明してきた通り、万が一、国の年金が破綻するような事態になればその前に、銀行の預金などはすべて消し飛んでいることでしょう。国が存在している限り、社会保障が崩壊することはありません。若者たちはなんてもったいないことをしているんだ、という話です。近代国家では、国以上に安全な金融機関は存在しえないという「ファクト」を義務教育でしっかり教えるべきではないでしょうか。

 若者たちが公的年金を信用しなくなっているのは、「公的年金は破綻するぞ」「もらえないぞ」という脅しめいた情報があとを絶たないからでしょう。そう言ったり書いたりすると注目を集めるので、「デマ」が流布されるのだと思います。お金を儲けたかったり、名前を売りたかったりする一部の学者や評論家が無責任なことを言っているだけだと、見抜く必要がありま
す。

 ***

では、国際問題については、出口さんはどのように考えるのでしょうか。

関連書籍

出口治明『人生を面白くする 本物の教養』

教養とは人生における面白いことを増やすためのツールであるとともに、グローバル化したビジネス社会を生き抜くための最強の武器である。その核になるのは、「広く、ある程度深い知識」と、腑に落ちるまで考え抜く力。そのような本物の教養はどうしたら身につけられるのか。六十歳にして戦後初の独立系生保を開業した起業家であり、ビジネス界きっての教養人でもある著者が、読書・人との出会い・旅・語学・情報収集・思考法等々、知的生産の方法のすべてを明かす!

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ようこそ「出口塾」へ! 「人生を面白くする本物の教養」をお教えします

いま私たちに本当に必要な勉強とは? この問いに、もっとも明快に答えてくれる人物のひとりが、60歳にして戦後初の独立系生保を開業した起業家で、ビジネス界きっての読書家でもある、ライフネット生命保険創業者の出口治明さんです。その出口さんの代表的ベストセラー、『人生を面白くする本物の教養』から、読みどころをご紹介する「出口塾」を開講します!

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出口治明

1948年、三重県生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)学長。ライフネット生命創業者。京都大学法学部卒。1972年、日本生命に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年に退社。同年、ネットライフ企画を設立、代表取締役社長に就任。2008年に免許を得てライフネット生命と社名を変更、2012年上場。社長・会長を10年務めたのち、2018年より現職。『人生を面白くする本物の教養』(幻冬舎新書)、『全世界史(上・下)』(新潮文庫)、『人類5000年史(I~Ⅲ)』(ちくま新書)、『座右の書『貞観政要』』(角川新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『還暦からの底力』(講談社現代新書)など著書多数。

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