椰月美智子さんの最新刊『その青の、その先の、』。この傑作の魅力を紐解くべく立ち上がったのは、小説家・樋口毅宏さん。『さらば雑司が谷』で鮮烈なデビューを飾って以降、『民宿雪国』など話題作を連発。最近では、革命的芸人論『タモリ論』を上梓し、話題をさらった。
少年少女の繊細な感性を瑞々しい筆致で描く椰月美智子さん。愛も哀しみも性も暴力も丸呑みするかのごとき作品を放つ樋口毅宏さん。一見すると正反対にも見える二人の小説家が、椰月さんのホームタウン小田原で、いざ対談!
『その青の、その先の、』はどこが素晴らしいのか
椰月 樋口さん、ほんとうに偉いよね。
樋口 えっ?
椰月 ほんとうにすごいなと思っちゃう。
樋口 なにがですか?
椰月 人の作品をここまで褒めてくれる人ってそうそういないと思うんだよね。
樋口 そのこと?(笑)。椰月さんの『その青の、その先の、』を読んで、これがもう素晴らしすぎて。居ても立ってもいられずに、激賞ツイートをたくさん書いたんだよね。僕ね、もともと雑誌の編集者だったっていうがあるからだと思うんだけど、自分が好きなものを、本でも映画でも音楽でも、みんなに教えたくなるんだよね。こんなすごい素晴らしい作品がありますよって伝えたいし、みんなと分かち合いたいっていう気持ちがすごい強くて。で、僕はもうご存知のように、もともとが椰月美智子の熱烈なファンじゃないですか。
椰月 そう(笑)?
樋口 はっきり言って、そうです。
椰月 そうですか(笑)?
樋口 僕は、椰月さんの『恋愛小説』にずっぽりハマってしまった人間ですよ。同じ小説家ではあるけれど、僕にはああいう作品は絶対に書けない。だから、椰月美智子って本当にすごいなって思い知ったんですよね。
椰月 映画とかを紹介したくなるのはわかりますけど、自分と同じ職業の人の本を、たとえすごく気に入ってくれたとしても、ここまで宣伝するっていうのは、ちょっとできない気がする。
樋口 そうなのかな。
椰月 そうですよ。
樋口 でも、「これは」と思った作品を書いた人を出版社に紹介して、小説家としてデビューさせてしまう白石一文さんには負けます(笑)。それに僕は単に「好きです好きです」って言っているだけですよ。とにかく、『その青の、その先の、』が素晴らしかったんですよ。
椰月 ありがとうございます。何がそんなによかったんだろ(笑)?
樋口 まずね、キャラクター設定。そして構成、展開。で、これはすごい難しいんだけど、ページを開いての文字のバランス――字面とでも言うのかな、その文字のバランスが絶妙なんだよね。
椰月 文字のバランス?
樋口 そう。文字って、改行もなしでびっしり詰めようと思ったら、それをやるのは可能ですよね。昔の小説ってそうなっている作品が多いし。それとは反対に、セリフだけで成り立たせることもできる。なので、僕は字面も作品の一部だと思っているの。『その青の、その先の、』は、字面が完璧。
椰月 そんなこと、考えたこともなかった。
樋口 あ、そう? 気にしない?
椰月 気にしない。今までも気にしたことなかった。
樋口 パラパラッとめくった瞬間に、「あ、よさそうだな」みたいな。僕、読者としてもそういうの気にするんだよね。
椰月 ……言われてみれば、たしかに。
樋口 あと、何より文章が美しいんだよね。登場人物の繊細な感情が、美しい文章で書かれていて、絶妙なんですよ。
椰月 なんて答えたらいいのかわからないけど(笑)。
樋口 僕はね、この本を読んでどれだけガツーンと来たかっていうのを伝えたかったんです(笑)。文章って、たった一つのツイートでも、その人の人格とか人柄とかっていうのは出ると思うんですよ。悪意のある人の文章って、やっぱり読んでて心が荒んじゃう。
椰月 それはわかる気がする。
樋口 『その青の、その先の、』からは、椰月さんの真っ直ぐな人柄がちゃんと伝わってくるんだよね。もちろん、椰月さんの他の作品からも伝わってくるんだけど、この作品からは特に強く椰月さんのパーソナリティーを感じた。それがすごく気持ちよかった。
椰月 意外だなぁ(笑)。
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