あれは洗濯とはいわない
坂 本を読んでいて、後半は涙が出ましたね。同世代の共感というか、こういう心の感じ、分かりますよ。僕も妻とは仲が悪いわけじゃないから。大体、男はある程度の年になれば、奥さんに頼って生きてるという人も多いと思いますよ。というか、そういう関係だから、たぶん長続きしているんだろうと思うんですよね。お互いに頼っているみたいなところがあるからね…そう、タイトルの「おまけ人生もまた楽し」って言葉もいいよね。
西田 そこ、知り合いからメールが来てね。「おまえ、意地張ってるやろ」と。「こんな楽しいはずない」って (笑)。
坂 家事をちゃんと楽しんでるじゃない。やっぱり楽しいと思わないとやってられないでしょ。僕もたまにしかやらないけど。洗濯なんて、でもまあ洗濯は簡単ですよね。洗剤の量を計って入れるだけなんで。
西田 いや、それは甘い。あれは洗濯と言わない。あれは、「洗濯機を使う」と言う。あれが終わってから、干して、ピンピンとやって干して、乾いたやつを取り込んで、そしてそれをきれいにたたんで、整理だんすに入れる、ここまでが洗濯だよ(笑)。
坂 僕ね(笑)、普段から、洗い上がった乾いたものを、たたんで自分のたんすに入れるというのはやるんですよ。下着でもなんでも。自分で衣類の管理は、普段洗濯はしないけど、洗い上がったものをたたむというのは、Tシャツでも、ブリーフでも、パンツでも、それから普通のゴルフ用のシャツとか、セーターとか。それから、ズボンを例えばズボンプレッサーにかけるとかね。アイロンはかけませんけどね。
西田 アイロンに向いてない?
坂 まぁ、ハンカチはアイロンはかけないな、うちは。そう、すごい凝ってるなと思ったんだよ、アイロンをハンカチにかけるの…
西田 うん、そんなに凝るもんじゃないということが最近分かった。ハンカチは真剣にアイロンかける必要がない。妻がいつもそうしていたから,そうするものだと思っていた。でも、最初のころはまず、しわを全部取って、折って、端がキッチリ合うようにして、こう入れて、また四つに折って……本当に時間かかってた。
坂 ハンカチ30枚で2時間とか。「ええ!?」と思ったけど。
西田 必要ない。
坂 ズボンプレッサーは使ってます? こう立ってるやつで、ホテルなんか行くとよくあるけど。あれはね、便利ですよ。
西田 あれね、僕、駄目なの。ここのサイズが…
坂 あ、サイズが合わない? はみ出しちゃう?
西田 僕、お尻が大きいから、こう二つにしたら、この幅がたぶん坂さんよりだいぶ大きいんだな。そうしたら、あの幅からはみ出しちゃう。ホテルでやっててね、どうして僕はうまくいかないんだろう、と思って見たら、結局、前のこの線がピシっとこう、あのサイズの中にこう入らないと駄目でしょ。
坂 そう。両方入らないと。
西田 それが端のほうに、やっと。
坂 なるほど(笑)
西田 そうするとアイロンしかない。
坂 そうか。ズボンプレッサーに入らないというの、初めて聞いた。
西田 でも洗濯もね、週に1回ぐらいクリーニング屋さんに持って行くんだけど、最初は恥ずかしいのね。だって、行ったことないでしょ。妻の会員券とか割引券を見て、ああ、あそこに行ってるとか。取ってきてとか言われて行ったことあるから、たぶんあそこのクリーニング屋さんだろうなと。
でも、だんだん慣れてきたら「またたくさんでごめんね」とかね、「西田さん、きょう割引券ないの?」と。「ないよ」とか、「なんとかならない?」とか、冗談を店のおばちゃんとできるようになってきて、ああ、俺もこれで主婦になってきたなって(笑)。
坂 なるほど。
西田 それと、スーパーで、みんな同じようなとこに来るでしょ。そうすると看護師さんとか、患者さんとバッタリ会うんだよね、タマネギをこうやって持ってるとき。「先生、こんにちは」「お元気ですか」なんて。最初、めちゃめちゃ恥ずかしかったんだよね。でも、最近はもういいやと、慣れてきてね。
坂 しかし、タマネギを買って、ちゃんと料理するというのはすごいな。大したもんだな、それは。僕はそうめんをゆでるとか、パンを焼くとかね。サンドイッチを自分で作るぐらいはしますけどね。
西田 そうめんと、うどんは楽なんだけど、あれ、あとが面倒くさいのよ。
坂 焦げ付かせないようにしておけば、サッと洗えば大丈夫です。
西田 でも、結構こびり付くよね。あの、粉みたいな。
坂 そうならないように、ちゃんとこう動かして。こびり付かせると鍋って面倒でしょ。
西田 うん。
坂 「包丁研ぎ器を使ったら、さらに包丁が切れなくなった」というのも本にあった。
西田 でもね、一回それやったらね、ものすごい気持ちよく切れることを味わうとね、研ぐのが楽しくなるの。特にトマトをね、シュッっとやったらね、スーッと切れていくときね。ほかのはね、力で押してもいいんだけど、トマトを力で押すと崩れるんだよ。
坂 グチャッとなっちゃいますからね。
西田 トマトが一番いい指標。
坂 板前さんは、研げる包丁じゃないと、よく切れる包丁で切らないとまずくなると言ってね。食べ物が。刺し身なんかね、すごくよく切れないと駄目なんだって。だから、彼らはしょっちゅう研いでいますよね。
西田 研いでるね。
坂 うちは包丁を研ぐのは息子が一番やるんだけど、僕もときどきやりますよ。子供の頃に、工作とかそういうので研いでいたから、それでおやじに教わったりしたから。うちは男のほうがむしろ、刃物を研ぐという技術はあるんだよね。家内はやらないと思う。砥石なんか、ちゃんとありますね。
西田 僕は砥石までいかないよ。僕はもう、電動の、ウィーンっていうやつ。
次のページ:70迎えて、死生観が変わった