天皇家の普段のお食事は、贅を尽くしたごちそうではなく、野菜中心のバランスのとれた献立でした。
天皇陛下の長寿と健康を26年間支えた料理人が、宮内庁大膳課で培われた料理のコツと“こころ”とともに、97の和のレシピをご紹介する書籍『天皇陛下料理番の和のレシピ』。この書籍の内容をダイジェスト版でお届けします。
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天皇皇后両陛下のお食事の時間は、朝食は午前8時半、昼食は正午、夕食は午後6時と決まっていました。私たち大膳の仕事は、朝7時半の出勤から始まります。和食の第一係は、前回の記事の通り早くても昼食からですが、この時間から6人で用意するので、じっくり仕事に取り掛かれました。
普段の日の天皇陛下のご公務は、9時半頃から夕方5時まで。お住まいの吹上御所からお出掛けになって、宮殿という建物でご公務をなさいます。自宅から職場へ出かけると考えれば一般の会社員の通勤のようなものですが、少し異なるのは、昼食は一度、吹上御所に戻られることです。
大膳の厨房から吹上御所にお食事を運ぶ車が回ってくるのが11時。陛下がお戻りになる時間と、吹上御所の厨房で仕上げる時間を計算して、大膳を出る時間を考えます。
ご公務をされる宮殿から吹上御所は徒歩5、6分の距離なのですが、陛下は途中でさまざまな植物を観察されたりするので、なかなか時間が計れません。気持ちよく晴れた日はなおさら。特に土曜日の午後はご公務も半ドンでしたから、たっぷり散策を楽しまれるのです。
そこで私たちは、陛下のおそばで警護をする側衛(そくえい)さんと連絡をとりながら、時間を調整します。「ただいま、道灌堀(どうかんぼり)のあたりをお進みです」などと、側衛さんの無線機に入る声を聞きながら用意するわけです。時間が計りづらい時は仕上げのタイミングに苦慮しました。
6日に一度の「宿直」
当時、私たちには6日に一度の「宿直」の仕事がありました。なぜ料理人に宿直の仕事が? と思われるかもしれません。主な理由は、朝食の準備のための早朝通勤が困難なことから、その解決策と聞いております。それともうひとつの側面は、陛下が「およふかし」(夜食)をご要望されたときのためです。和食、洋食から各一人ずつ、給仕をする主膳係から二人の計4人で務めることになっていました。しかし、毎日必ずこの4人で待機をするものの、実際におよふかしのお声がかかることはまずありませんでした。
例外は11月23日の新嘗祭(しんじょうさい)という祭儀の日ぐらいです。新嘗祭とは稲の収穫を祝い、翌年の豊穣を祈願する祭典で、この日は夜を徹して儀式が執り行われます。この日の深夜、「おとりかわしのうどん」といって、天皇両陛下と東宮さまとの間で、お互いにお贈りする伝統があるのです。
陛下は普段は規則正しく一日三食を守られ、間食は召し上がりませんでした。また陛下はお酒を口にすることはありませんでした。晩餐会での乾杯も口をおつけになる仕草だけで、おそらく生涯で一度もアルコールを口にされなかったのでは、と思います。
にんじんと里いもの炊き合わせ
にんじんは一年中手に入る野菜ですから、料理番にとっても心強い食材です。
旬ならばにんじんを主役に、その他の季節はその時々の素材を主役に炊き合わせます。
◆材料(2人分)
にんじん … 60g
里いも … 2個
アスパラガス … 2本
A) だし … 300cc
A) みりん … 大さじ1
A) 濃口しょうゆ … 大さじ1と2/3
◆作り方
1) にんじんは縦に4つに切り、面取りする。里いもは大きければ半分に切る。アスパラガスは4~5cmの長さに切る。
2) 1)の野菜は別々に下ゆでし、水気をきる。アスパラガスは水にとって冷まし、水気をきる。
3) 鍋ににんじん、里いも、A)をすべて入れ、落としぶたをし、中火で5分ほど煮る。アスパラガスを加え、温める程度に煮る。
※第4回は5月17日(日)更新予定です
天皇陛下料理番の和のレシピ
天皇家の普段のお食事は、贅を尽くしたごちそうではなく、野菜中心のバランスのとれた献立でした。
天皇陛下の長寿と健康を26年間支えた料理人が、宮内庁大膳課で培われた料理のコツと“こころ”とともに、97の和のレシピをご紹介する書籍『天皇陛下料理番の和のレシピ』。この書籍の内容をダイジェスト版でお届けします。