平成も残すところ約1カ月。4月1日にはいよいよ新元号が発表になります。「平らかに成る」からは程遠かった平成。平成とは日本人の精神が複雑骨折した時代だったと言う白井聡さん。その先の希望を、私たちはどこに見出すことができるのでしょうか? 片山杜秀さんと白井聡さんの対談、最終回です。
記事の終わりに『平成精神史』出版記念講座のご案内があります。
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「オウム的なるもの」の勝利
白井 さて、『平成精神史』を読みながら、わが国はこれからどうなるのかを考えると、残念ながら「これはロクなことにならないぞ」という結論に達せざるを得ません。平成という時代が進めば進むほど、それがはっきりしてきた気がするんですよ。本書でも、それがいくつかの側面から語られています。
その中で僕がとくに気になったのはオウム真理教の話なんですね。阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件が起きた平成7年(1995年)を境に、どうやらこの平成という時代は「平らか」ではないようだという不安が頭をもたげてきたように思います。
オウム真理教のオカルト的な世界観に対しては、大部分の日本人が「荒唐無稽でバカバカしい」と思い、基本的には嘲笑していたでしょう。しかし、あれから20年以上が過ぎて、日本がどうなったか。
たとえば現政権を支持する人たちには、「安倍首相は、トランプさんともプーチンさんとも仲が良い。いまや世界から信頼される指導者はシンゾー・アベしかいない!」などとウットリしている人たちもいますよね。私は、この荒唐無稽ぶりはオウム真理教に通じるんじゃないかと思うんです。
オウム真理教は一斉に死刑が執行されて敗れ去りましたが、この本で片山さんがおっしゃっているように、実は「オウム的なるもの」が勝利したのが平成という時代だったのではないか。
片山 たしかに、オウム真理教が日本人一般と重なる存在だとは、当時は思いませんでした。なにしろサリンのような毒ガスの散布に成功し、核兵器の製造まで真面目に考えていたのですから。きわめて特殊で突出した集団だと見られていたわけです。
ところが白井さんがおっしゃるとおり、いまの日本人は教祖をつくりあげてカルト的に信じ、おかしなところは見ないようにして合理化する形で結束しようとしています。「安倍首相は世界に礼賛されていてすばらしい」みたいな話は「世界が金日成を仰ぎ見ている」という昔の北朝鮮映画と同じですよ。
白井 コミンテルンの陰謀論などをまことしやかに書いた本も、しばしばベストセラーになりますしね(苦笑)。
片山 そういう、どこまで本当なのか怪しい話を信じる人々を見ると、日本全体がカルト化しているような気がしてしまいます。
ちなみに、北一輝が『国体論及び純正社会主義』を発表した当時も、日本はオカルトブームでした。千里眼少女なんかが流行っていたんですね。イギリスでもコナン・ドイルの降霊術などがあり、超能力や霊の世界が科学で解明できると思われていた。
そこに進化論が結びついちゃったから、北一輝は同書の中で人類が「神類」に進化するなどと書いています。ヒトがサルから進化したように、交配の方法を科学的に研究すれば人類は急速に進化を果たして、何代か後には神のような高い能力を持つ「神類」が誕生するはずだ、というわけです。
白井 面白いですよね。あの本は言葉遣いこそ激烈だけど、基本的にはものすごくロジカルに書かれています。なのにそれが、「人間が神に進化する」という話になってしまう。
片山 実は、北一輝がその『国体論及び純正社会主義』を書いてから二・二六事件で死刑になるまでの年数と、麻原彰晃が「オウム神仙の会」を設立してから死刑になるまでの年数が、ぴったり同じなんです。どちらもスタートから31年後に死刑になりました。
では北一輝の死後に日本がどうなったか。日中戦争で国家総動員体制が敷かれ、天皇の下でのファシズム体制という、北一輝の理想とした国家社会主義に近づいたわけです。そして麻原が死刑になったときには、日本はカルト化していた。
オウム真理教は、「創価学会や米軍や自衛隊などが自分たちを攻撃している」と主張して周囲に敵をつくり、危機を煽ることで結束を強めようとしましたよね。これは、北朝鮮や中国の脅威を強調して、「だから日本をつくり変えなければいけない」というロジックとパラレルだと思います。北一輝と麻原彰晃の死後に日本が同じような道をたどっているのは怖いですね。
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