帝国陸軍としての経産省、その破綻
白井 戦前の流れと重なって見えることがもうひとつあります。それは、いま政治や経済の分野で起きている大事件のほとんど全部に、経産省が関係していることです。
安倍政権の本質は、警察権力と経産省ではないかと思うんですよ。経産省が主導してさまざまな政策を取り仕切ってきたわけですが、いま、それが総じて行き詰まり、破綻してきている。北方領土問題しかり、原発輸出しかり、日産自動車しかりです。産業革新投資機構の件に至っては、財界と経産省の深刻な仲間割れが明るみに出てしまった。
いよいよ二進も三進もいかなくなり、何とかして財界のご機嫌をつなぎ止めないとヤバいと感じたから、入管法改正もあれほど強引にやったのではないでしょうか。
これまでは経団連が、日本のブルジョアジーの総意として、経産省に支えられた安倍政権に任せてきたわけですけど、さすがに彼らも「こいつはスカだった」と気づき始めたんでしょう。ようやく気づいたのかよという話なんですが(笑)。
その財界に見放されてしまうと困るので、入管法改正という果実を与えたかった。そんな見立ても成り立つと思うんです。これを昭和のアナロジーで考えてみると、経産省は昔の陸軍じゃないですか。
片山 たしかに、そういう見立てもできますね。
経済の話で言うと、「次はこんなふうに良くなる」というビジョンを描けなくなってきたのが平成でした。高度資本主義国家の成長モデルが、どう探しても見つからないんです。
30年前の平成元年はベルリンの壁が崩壊し、「ついに社会主義の敗退、資本主義の勝利だ」という話になりました。ところが現在は、フランスもドイツもイギリスもおかしくなり、アメリカはめちゃくちゃになっている。産業革命以来、近代資本主義を牽引してきた優等生の国が、いずれも末期的な症状を呈している。これはソ連崩壊以上の衝撃的な状況でしょう。
ソ連崩壊後は、「21世紀はアメリカ流の資本主義で絶対に間違いない」と思われていました。イデオロギー的な選択肢がなくなったから、日本の政治も「革新」が存在意義を失い、保守二大政党が志向されるようになった。
資本主義が行き詰まっているならば、社会主義的な補正が必要になるわけですが、日本の場合はそのための政治的な受け皿がありません。
冷戦構造の崩壊を素直に真面目に受け取りすぎたのかもしれませんが、受け皿になるはずの社会主義政党を壊しちゃったんですね。せめて米国大統領選でブームになったサンダースぐらいの論法でやったらどうかと思いますが、そういうことを考える政治家が全然いない。経済、社会、福祉について、信頼できる思想と見通しが、国民に与えられなくなって久しいと思います。
一方、民主主義について言えば、若い頃から戦後民主主義と皇室の関係を思いつめてきた今上天皇が前面に立つようになってしまいました。民主主義の護持に関しては、今上天皇や秋篠宮のほうが、下手な自称リベラルの政治学者よりも思想的に深いメッセージを送っているような気がします。国民の反応は薄いとはいえ、その意味では、民主主義の芽はまだあるんですね。
日本の民主主義は資本主義とセットになってきたので、その資本主義が折れると民主主義のほうも折れてしまう可能性はあります。ですが、社会民主主義的な考え方が復活してくれば、天皇のお言葉と結びついた形で民主主義が復権し、ポスト資本主義的なことになっていくかもしれない。今後の希望としては、それぐらいしかないですよね。
白井 今回の御本で、片山さんがマルクスを読むことの重要性を大変強調しておられて、全く同感です。平成はマルクスが忘れられて、その分だけ国民の知的水準が低下した時代だったようにも思われます。
次のページ:「ふつう=日本会議的おじさんの逆」を目指す