天皇皇后両陛下、ご即位おめでとうございます。
雅子さまがこの日を迎えられるまでの道のりは、決して順風満帆なものではありませんでした。多くの国民、とりわけ世代の近い女性たちは、雅子さまの苦しみ・哀しみに、わがことのように思いを寄せてきました。
皇室が雅子さまにとって生きやすいものとなり、同じように「実存のうつ」に苦しむ多くの人たちにとっても、この社会がもっと生きやすいものになってほしい――そんな願いも込めた、精神科医・斎藤環さんと『美智子さまという奇跡』の著者・矢部万紀子さんの対談をお届けします。
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バッシングされていたら絶対に回復できない
矢部 拙著『美智子さまという奇跡』の中で、斎藤先生を皇室の広報担当にスカウトしたいと書かせていただきました。
斎藤 あれは面白いアイデアですね(笑)。主治医は守秘義務があり、広報役は担えませんから。
矢部 雅子さまは新しいタイプのうつで、それは自分が生きる意味を失った時に苦しみが始まる「実存のうつ」だと、先生は「病の意味」を語ってくださいました。生き延びるために頑張りすぎてつぶれる「生存のうつ」とは違うということ、わがままに見える病だということ、全ての解説に納得しました。これが国民、メディア、そして皇室内でも理解されていたら、雅子さまはあそこまで追い詰められなかったのでは、と思ってのことです。
斎藤 雅子妃の場合は、多少なりとも擁護の論陣を張らないとバッシング一色になってしまうと思いました。診ないで語ると精神科医は批判されがちですが、診ないからこそ語れるんです。担当医の方も、もう少し弁護的なことをおっしゃってもいいんじゃないかなという気はしますけれど。
矢部 大野裕先生は「東宮職医師団」として年に一度、文書を示すだけですが、内容はずっと同じです。最初の見解から15年経ちますが一貫して、「回復しているが体調に波があり、過剰な期待は負担になるので、温かく見守ってほしい」と。
斎藤 そういう診断書、私もたくさん書いています(笑)。職場に復帰できそうでできない人の場合、「一進一退」と書かざるを得ない。
矢部 それでも最近の雅子さまは、ずいぶん体調が良くなっているように見えます。まだ欠席される行事もありますが。
斎藤 一番いい影響を与えているのは、雅子妃へのバッシングがなりを潜めていることだと思います。
矢部 確かに最近は秋篠宮家、中でも紀子さまへのバッシングが目立ちます。
斎藤 私は雅子妃バッシングの渦中、こんなに注目されていたら絶対治らない、海外に1年以上行くしかない、と言っていました。逆に言えば、世間が無関心になればとてもいい影響がある。このままずっと無関心でいてほしいと思います、医者としては。
矢部 退位の話が天皇から出た時点で、雅子妃が近く皇后になるという道筋がはっきりしました。それにより、メディアの筆先も鈍ったと思います。その分、紀子さまがものすごい言われようになっていて。
斎藤 期せずして、盾になっているとも言えますよね。
矢部 ただ5月以降は新しい皇后として雅子さまのメディアへの露出は増え、注目もぐっと増えると思いますが。
斎藤 バッシングでなければ大丈夫だと思うんです。皇后になってますますバッシングしにくい状況になれば、少しずつ宮中祭祀などもこなせるようになるかもしれない。
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