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美智子さまという奇跡

2019.12.17 公開 ポスト

雅子さまに託す私たちの思い

どうぞ雅子さまにとっての「生きやすい」皇室を【2019年Yahoo!ニュースで人気1位(再掲)】斎藤環(精神科医)/矢部万紀子(コラムニスト)

「旧家のしきたり」に適応できないのは当たり前

矢部 本の執筆にあたりとても参考になったのが、先生も出席された「文藝春秋」2008年4月号の座談会です。世代の異なる6人の識者が出席される中、先生が宮中祭祀へのクールな見方を提示されていて非常に腑に落ちました。私は先生と同じ1961年生まれですので。

斎藤 あの対談の中で「旧家に嫁ぎ、意味のわからない行事に参加させられた」女性の話をしました。

矢部 それが屈辱的でトラウマ的な体験になり、離婚された、と。

斎藤 実は、妻の話なのです。彼女の前の結婚相手が地方の大きな旧家の人で。対談でその話をしたこと、妻から感謝されました。同じ思いをしている女性がいるはずだ、と。

矢部 ましてや天皇家の古さといったら、日本一ですから。

斎藤 一般の旧家とは比べものにならないくらいの行事、つまり宮中祭祀がつるべ打ちでやってくるわけです。ハーバードや東大で徹底して合理主義者として育てられた人が、納得できるとは思えない。もっと言うなら、宮中祭祀のほとんどは明治期以降ですよね。

矢部 1908年(明治41年)に制定された皇室祭祀令で詳細が定められ、戦後も基本はそれを受け継いでいますから。明治天皇の神格化と重なっているように思います。

斎藤 これが2000年の歴史であれば雅子妃も納得できたかもしれないですが。

矢部 潔斎(けっさい)など大変な負担を強いられますしね。

斎藤 そういうものに従う義務があるのかという疑問は当然感じるでしょうし、やらないとバッシングされることにもすごいストレスを感じるだろうと思います。「適応障害」でも、適応先があまりにもストレスフルだから、これはやはり環境のせいと言った方がいいと思いますねえ。

矢部 その環境に美智子さまは大変適応され、それを私は「奇跡」と思うわけですが。先生は文藝春秋の対談で、皇后は「ヒステリー体質」だと語っていらっしゃいましたが、それと適応は関係あるのでしょうか? 

斎藤 誤解のないように説明しますが、ヒステリー体質といっても、キーッとなるような一般的なイメージのそれではありません。感応性の高い体質、時に憑依(ひょうい)されるような体質で、巫女などの職業に向いています。バッシングで失声症になり、硫黄島で祈って回復するあたりも、そういう資質がすごくある方だと思います。

矢部 皇室に入り、憑依するかのように適応された、と。

斎藤 それもあると思います。皇室のシステムがそうあることを要求するという面が多分にあるので。ただ宮中祭祀というものは、巫女役を自ら引き受けるくらいでないと、とてもやりきれないものだと思うんです。肉体的にもハードな行事が、通年続くわけですから。だから結婚で変わられた部分もあると思います。

矢部万紀子『美智子さまという奇跡』

1959(昭和34)年、初の民間出身皇太子妃となった美智子さま。 その美しさと聡明さで空前のミッチーブームが起き、 皇后即位後も、戦跡や被災地を幾度となく訪れ、ますます国民の敬愛を集められます。 美智子さまは、まさに戦後の皇室を救った“奇跡”でした。 ですが、奇跡は、たびたび起こることがないから、奇跡と言われます。 今私たちの目に映るのは、雅子さまの心の病や眞子さまの結婚問題等、 次の世代の方々が、世間にありふれた悩みを抱えている姿です。 美智子さまの退位と共に、皇室が「特別な存在」 「すばらしい家族」である時代も終わるのでしょうか? 皇室報道に長く携わった著者が「奇跡の軌跡」をたどる、等身大の皇室論です。

 

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美智子さまという奇跡

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斎藤環 精神科医

1961年、岩手県生まれ。医学博士。筑波大学医学医療系社会精神保健学教授。専門は思春期・青年期の精神病理学、病跡学、精神分析、精神療法。「ひきこもり」ならびに、フィンランド発祥のケアの手法・思想である「オープン・ダイアローグ」の啓蒙活動に精力的に取り組む。漫画・映画などのサブカルチャー愛好家としても知られる。主な著書に『戦闘美少女の精神分析』『ひきこもりはなぜ「治る」のか?』(以上、ちくま文庫)、『アーティストは境界線上で踊る』(みすず書房)、『「社会的うつ病」の治し方』(新潮選書)、『世界が土曜の夜の夢なら』(角川文庫)、『承認をめぐる病』(日本評論社)、『人間にとって健康とは何か』(PHP新書)、『オープンダイアローグとは何か』(医学書院)などがある。

矢部万紀子 コラムニスト

1961年三重県生まれ。コラムニスト。83年朝日新聞社に入社し、記者に。宇都宮支局、学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。94年、95年、「週刊朝日」で担当したコラムをまとめた松本人志『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)がミリオンセラーになる。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理をつとめたのち、書籍編集部で部長をつとめ、2011年、朝日新聞社を退社。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長となる。17年に株式会社ハルメクを退社し、フリーランスで各種メディアに寄稿している。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。

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