「これからはプロテインが来る!」
自分を試せる場所、鍛えられる場所はないか。そんなことを漠然と考えていた矢先に、知り合いからプロテインのビジネスを手伝ってほしいという依頼があった。
三陸沿岸部に移住する1年前に知り合った、1つ年上のA氏とは、震災後のボランティア活動も一緒に行った仲だ。私が漁師になった後も、いろいろと目をかけてくれていた。
A氏は、それまではスポーツ用品の開発販売を手掛けていたが、2015年頃、「今後はプロテインが来るはずだ!」と予測。その後、コツコツと自社製品の開発を進め、販路の拡大に成功していた。しかし人材不足のため、新商品の開発や新規顧客の開拓には手が回らない。そのタイミングで、私が何かすることがないかと相談したので、プロテイン製造の小ロット受託製造(OEM)という分野を開拓してほしいと持ちかけられたのだ。
とある福祉施設との出会い
早速、A氏と行動をともにし、プロテインビジネスのイロハを学びつつ、製造工場に足を運んだ。
その工場は、知的障碍者たちが職業訓練をしている、「登米大地(とめだいち)」という就労継続支援(B型)の施設(工場)だった。経営しているのは、はらから福祉会。宮城県内で9つの施設(食品工場)を経営している。
「就労継続支援(B型)」とは、一般企業に就職するのが難しい障碍者に、就労のために必要な訓練を提供する、国の制度に基づく事業だ。
工場の中に入ると、日常生活ではあまり接することの少ない知的障碍を持つ人たちが、それぞれのできる作業を行っていた。私を見つめる人、見ない人、話しかけてくる人など、様々だったが、私は直感した。
「次のステージはここだ」
強みは小ロット・低コスト
現在私が手掛けているプロテインOEM事業は、ジムや小売業者が主な顧客だ。ジムオリジナルのプロテインを作りたい、ネットで格安のプロテインを販売したいなどの要望に応えている。
通常のOEM工場だと、大型の機械を稼働させなければならないため、50㎏を作るのも1トンを作るのも同じコストがかかる。しかも企画屋さんが間に入れば、コスト的にもっと無駄が大きくなる。
しかし今の時代、組織の大小にかかわらず、リスクをとれる企業はあまりない。どんな企業も、まずは小ロットから試験的に試したいと考えている。
そこに目をつけて、私の会社では、「低コストで少量生産」という、これまでの常識ではありえない分野を開拓し、プロテイン業界にチャレンジしている。
小ロットの秘密は、製造工程のほとんどを手作業で行うことにある。一般の工場は、人間よりも機械に投資し、大量に作ることでコストを下げる。これに対して当社のプロテイン工場「登米大地」は、そもそも就労支援の組織なので、利用者(障碍者)に作業を提供することをまず優先する。したがって、過大な設備投資はしない。大型の機械を動かさないので、小ロットで様々なバリエーションを作ることができ、急な仕様変更にもすぐに対応できる。
つまり多品種少量生産に非常に向いていて、そのことが利用者の訓練にもつながる。これからの時代は、細かなニーズに合わせた少量生産が主流になる。まさに時代が求めるものに合致しているのだ。
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移住サバイバル
東日本大震災を機に宮城県石巻市に移住した山本圭一さん。家なし、知り合いなし、文字通りゼロから始まったサバイバル生活の記録。