北海道の刑務所を舞台に新人ドクターの活躍を描く、手に汗握る医療サスペンス『プリズン・ドクター』(幻冬舎文庫)刊行を記念し、著者の岩井圭也さんにインタビュー。作品に込めた思い、ちょっと変わった執筆の方法などなどを担当編集が聞きました(取材は4月7日、WEB上にて実施)。第1話をこちらから試し読みいただけます →「刑務所勤務開始! 直後に死亡事件」
ーー本作の舞台は北海道の刑務所。主人公は研修明けで配属された新人で、矯正医官、簡単にいえば刑務所のお医者さんですね。まず、なぜ矯正医官を描こうと思ったのでしょうか?
岩井 NHKの「総合診療ドクターG」という番組をたまたま見た時に、矯正医官の先生が出てきたんですよ。
その内容が、受刑者が自殺しようとする、というもので。壁に頭をぶつけたりして。すごく惹かれまして。精神的なアプローチはもちろんなんだけど、あぁ、病理的なアプローチもできるんだなって。そこからですね。医者の世界にもミステリ的要素があるっていうのと、矯正医官の世界はおもしろいなと。
あと、EXILEのATSUSHIさんがモデルのポスターを病院で見たことがあって「なり手が少ないらしい」という知識はあったので、よしこれで書いてみよう! と。
――本作は4章(+序章・終章)で構成されていますが、各話の謎解き部分では、かなり専門的な化学・医学知識が使われています。第1章の病名は、初めて見たときは「え? 本当にこんな病気、あるの?」と思うけれど、検索するとちゃんとある。特殊な病気や専門知識は、どのように思いついたんですか?
岩井 あの病態は、名前がつけられないってずっと放置されていたらしいんですよね。一筋縄ではないので、よくわからない、難しい、と。名前は日本の研究者がつけたんですよ。
で、そういった小説に活かせそうなものは基本、論文を読みまくって探しましたね。その意味では今回、かなり特殊な執筆の進め方でした。論文から小説を書いていく、という。
――素人質問ですみませんが、論文ってどう探すんですか?
岩井 いちばん簡単なのは、Google Scholar(グーグル・スカラー)です。誰でも見れます。新型コロナ、COVID-19に関するものも近頃は多いですね。
――なるほど……とはいえ、これある程度予備知識がないと探すのも読むのも難しいですね。
岩井 理系で院までやったのと、今もその方面の職業に就いているので、慣れていましたね。日頃から最新の論文には触れますし……ただ、もちろん完全なリアルではないし、想像の部分もあるから、発売されたあとに、研究している人から苦情がこないか、めっちゃ心配です(笑)
――おもしろい論文、っていうのもあるわけですよね。小説には使えなかったけど。
岩井 ああ、たくさんありましたよ。○○○に凄い大きい○○○が、とか……○○○食べちゃいました、とか。やっぱり特殊な症例は論文にされやすいので、ぶっとんだものがたくさんありますよ。
――す、すごいな……今度くわしく教えてください(笑)
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プリズン・ドクター
注目の新鋭が描く、手に汗握る医療ミステリ!
奨学金免除の為しぶしぶ刑務所の医者になった是 永史郎 。患者にナメられ助手に怒られ、 憂鬱な日々を送る。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が変死した。胸を搔きむしった痕、覚せい剤の使用歴。これは自殺か、 病死か?「朝までに死因を特定せよ!」所長命令を受け、史郎は美人研究員・有島に検査 を依頼するが――。