もがいている若い人にも読んでほしい
――2018年にデビューされてから1年半が経ちましたが、いかがですか?
岩井 正直、少し焦りがありますね。ありがたいことに執筆のお話はいただけてはいますが、単に「書いているぞ」だけではダメだなと感じます。「こう書きたい」だけではなくて、きちんと一本筋が通っていないと。大事な時期に差し掛かっていると思います。
――それでいうと、これまでの作品に比べ、本作は毛色が少し違いますね。執筆してみてどうでしたか?
岩井 まず文庫書き下ろしというのが初でしたし、エンタメによせて、ミステリに取り組んだのも初だったし、先ほど言いましたけど論文から発想するというのも初で、いろいろな意味でチャレンジでした。
ただ、北海道という馴染みのある土地を舞台にしたので、主人公がここでこう動いてとか、想像するのはやりやすかったかな。
――北海道の描写、食の描写も本作の読みどころですね。
岩井 はい。出身は関西ですが北海道大学に進学したので、丸6年、19歳から24歳までいわゆる青春時代を北海道で過ごしました。本作に登場する居酒屋も、いくつかのモデルを融合させて作っています。
――その中で躍動する主人公、是永史郎のキャラはどう作りましたか?
岩井 どういう人が矯正医官として適正だろう、って考えたときに、若いっていうのと、一途になにかを追いかける像が合っているのではないかなと。多少の頑固さみたいな、若さゆえの一本気なところを持っていて。そう考えていたら自然と第一話ができていました。
第一話は、年上の刑務官が受刑者たちを十把一絡げで扱おうとするのに対し、なんとか一人ひとりと向き合おうとして、もがく。そういったお話を書いていく中で、人物像は自ずとできてきましたね。
――めちゃくちゃ真面目なんだけど、やさぐれちゃうというかナイーブな一面もある。ちょっと思ったのが、実際にクラスにこういう奴がいたら、いいやつなんだけど接しにくそう(笑)
岩井 たしかに(笑)友だちになれるかどうか、ぼくも疑わしい(笑)融通がきかないし頑固だし。真面目だけど頼りないところがある。
でも、若いころって誰しもそういう要素があるんじゃないかなって。今30代40代のひとが若いころを思い返すと、なんか頑固だったよなとか、いじけていたよな、とか。そういう若さのエッセンスみたいなものも楽しんでほしいですね。
――史郎の仲間たちも個性的ですよね。特に、美人研究員の有島。かっこいい。
岩井 バリバリの仕事人間ですね。研究者として優秀なだけではなく営業力もあって、企業から自分で予算引っ張ってきて、昼も夜も構わず研究に没頭している。
――酒をぐいぐい飲むし(笑)そしてなぜか、史郎とウマがあう。居酒屋のシーンで食べてた「アレ」には驚きましたが(笑)
「アレ」ね(笑)ちなみにちゃんと自分で検証したので、頑張ればあの食べ方、できますよ(笑)
――先日バーテンダーの友人から「酔っ払った客があの食べ方をしてたよ」と聞いたんですが、なんと岩井さんご自身で検証していたとは……
岩井 やりましたよちゃんと。そう、校正さんからエンピツ入ってましたね。「さすがにムリでは?」って(笑)
――ネタバレになるのでそれ以上はやめましょうか(笑)ところで有島って史郎のこと……
岩井 そこね……モヤモヤですね……(笑)
――でも史郎にはかわいい彼女がいて……
岩井 しかも初めての彼女ですからね。26にして。すごく奥手。そのせいで一波乱起きます。
――恋バナを描くのも初では?
岩井 たしかに『永遠についての証明』で少し描きましたけど、あれは現在から過去を見てだからよけいモヤモヤだったけど、今回は現在進行系のモヤモヤですからね。でも、思いの外、書いていてとても楽しかった(笑)
――女性を書くっていう上で気をつけていることってありますか
岩井 女性だからこう考えるだろう、っていうのはしないようにしていますね。男性だから、とか女性だから、ではなくて、その人だったらこうなるだろう、と。性別で色付けはしないようにしてます。
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プリズン・ドクター
注目の新鋭が描く、手に汗握る医療ミステリ!
奨学金免除の為しぶしぶ刑務所の医者になった是 永史郎 。患者にナメられ助手に怒られ、 憂鬱な日々を送る。そんなある日の夜、自殺を予告した受刑者が変死した。胸を搔きむしった痕、覚せい剤の使用歴。これは自殺か、 病死か?「朝までに死因を特定せよ!」所長命令を受け、史郎は美人研究員・有島に検査 を依頼するが――。