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やまゆり園事件

2020.07.26 公開 / 2021.07.26 更新 ポスト

第2回(全3回)

自分も「生きるに値しない命がある」と思ってはいないだろうか?【再掲】神奈川新聞取材班

「じゃ、お前はどうなんだ」と突きつけられた

――植松の言葉に言い返したくなったり、何か言い返したりしたことはありましたか?

石川泰大記者

石川 基本的には、こちらが感情的にならないように気をつけていました。取材を継続するためには植松との関係性を継続しなければならないというのもありましたので、雑談をすることもありますし、彼の要望を受けてボールペンや便せんを差し入れたこともあります。一方で、詰めるところは詰めますし、植松とは違うこちらの考えをあえて言うことで逆に反論させるような言葉を引き出すようこともありました。単なる聞き役ではなく、会話のキャッチボールができるような、適度な距離感を保とうとしていました。

――植松の言葉で、自分自身が揺らいだ言葉、突き刺さったような言葉は何だったでしょうか?

石川 本でも書きましたが、「自分の考えが世間に受け入れられていると感じるか」という質問をしたときです。彼との接見で反論する人も大勢いたと思いますが、その一方で植松の考えに賛同する、応援する手紙も少なからず彼のもとに届いていました。本人的には、自分の考えは世の中に受け入れられているという気持ちをずっと持っていたわけです。

そこで改めて「どう思っているのか」と尋ねたとき、彼は自分の考えを胸を張って答える人間ではないので、ちょっと控えめながらも、「私の考えに公の場で賛成する方は少数ですが、反対する方も少数ではないでしょうか」と言ったんですね。

――本人は確信があるわけですね。

石川 そう思います。自信を持った表情を僕に向けてきたので、そのときばかりは言葉に詰まりました。取材に来た自分に対して「じゃ、お前はどうなんだ」と突きつけられた場面が印象に残っています。

 

 

関連書籍

神奈川新聞取材班『やまゆり園事件』

2016年7月26日、知的障害者施設「津久井やまゆり園」で19人が死亡、26人が重軽傷を負った「やまゆり園事件」。犯人は植松聖、当時26歳の元職員だった。なぜ彼は「障害者は生きるに値しない」と考えるに至ったのか。地元紙記者が、37回の接見ほか丹念な取材を続け、差別を許容する現代日本のゆがみを浮き彫りにした渾身のドキュメント。

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やまゆり園事件

〈目次〉
第1章 2016年7月26日
未明の襲撃/伏せられた実名と19人の人柄/拘置所から届いた手記とイラスト

第2章 植松聖という人間
植松死刑囚の生い立ち/アクリル板越しに見た素顔/遺族がぶつけた思い/「被告を死刑とする」

第3章 匿名裁判
記号になった被害者/実名の意味/19人の生きた証し

第4章 優生思想
「生きるに値しない命」という思想/強制不妊とやまゆり園事件/能力主義の陰で/死刑と植松の命

第5章 共に生きる
被害者はいま/ある施設長の告白/揺れるやまゆり園/訪問の家の実践/“成就”した反対運動/分けない教育/学校は変われるか/共生の学び舎/呼吸器の子「地域で学びたい」/言葉で意思疎通できなくても/横田弘とやまゆり園事件

終章「分ける社会」を変える

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