人生に絶望した売れないマジシャンが突如40年前にタイムスリップ、若き日の父と母に会い、それまで知らされていなかった真実を知る――。
5月24日公開の『青天の霹靂』は、劇団ひとりが2010 年に書き下ろした同名小説を、ひとり自身がメガホンをとって映画化した初めての監督作だ。芸人として多くのコント台本を書き、自ら演じてきたひとりは、初めて手がける映画づくりにどう取り組んだのか全3回で迫る。第1回目の今回は、大胆な脚色の理由や編集の裏話を聞いてみた。
(聞き手・構成:稲田豊史/写真・菊岡俊子)
第2回の記事:劇団ひとり、演出する
最終回(第3回)の記事:劇団ひとり、映画づくりに没頭する
自らの書き下ろし原作を大幅に脚色
――映画を観て、プロットが原作からものすごく変わっていることに驚きました。映画化を踏まえて書き下ろした作品なのに、なぜここまで変えたんですか。
劇団ひとり(以下、ひとり) 改めて読み返すと、あんまり面白くないなあと思う部分が結構ありまして(笑)。このあたり、原作者に気を遣わずどんどん変えていけるのが、自分原作のいいところですね。真面目な話をすると、自分の文章力ではどうしても表現できないモチーフの描写を執筆時に諦めていたことは大きいです。
――そのシーンを映画で復活させたと。
ひとり はい。たとえばペーパーローズ(マジックで使う紙で作ったバラ)。四谷のマジックバーで、紙でできた花が宙を舞うのを見てえらく感動しまして、小説を書くきっかけにもなったマジックなんですが、当時の僕の文章力では、あの美しさを到底表現できなかったんですよ。
――映画ではクライマックスに登場しますね。原作にも出てきますが、映画のような描写はなかったです。
ひとり 映画用の脚本を書いているとき、9割5分できてるんだけど、残りの5分ができないっていう状態で、ふと思い出したんです。そうだ、そもそもあれをやりたかったんだ。文章では無理だったけど、映像なら表現できるなと。脚本は20稿以上重ねましたが、ペーパーローズが登場するシーンは、いちばん最後の稿で決まりました。
――20稿も! どういうプロセスを経て改稿されていったんですか。
ひとり プロデューサーだけじゃなくて、東宝のちょっと偉い方や、今年入った新入社員、スタイリストさんといった、いろいろな方に脚本を読んでもらったんですよ。先入観をなくすため、僕が書いたとか、誰が演じるかとかは一切伝えずに。そこから出てきた意見を集めて、多くの人が一致して違和感を抱いている箇所は直す。その繰り返しで叩けるだけ叩いていったんです。
次のページ:「意味がわからない」と思われたくない
青天の霹靂 情報の記事をもっと読む
青天の霹靂 情報
『青天の霹靂』劇団ひとり(著)に関する最新情報を公開します。