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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)

2022.05.06 公開 ポスト

『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』刊行記念対談

マジで不幸を呼ぶ岡本さん。加藤千恵さんとの念願のオンライン短歌対談で、一度も自分の顔が映らないという不幸岡本雄矢( 主に“トホホ短歌”を詠む「日本に(たぶん)ただ1人の歌人芸人」)

人は幸せなとき、短歌とか言葉とかどうでもいい(笑)(加藤)

加藤 岡本さんは、普段からご自分の実体験を短歌にすることが多いんですね。

岡本 そうです。こういう言い方でいいのかよくわからないんですが、最初は標語的というか、キャッチフレーズ的な短歌をつくっていたんですけど、リアリティーが感じられなくて。みんなと同じ山じゃなくて、自分だけの山を目指そうと思って、不幸な話をピンポイントで短歌にしていたら、エッセイを書きませんかっていうお話をいただいた。だから、不幸が起こる、短歌をつくる、エッセイを書くという流れです(笑)。

加藤 不幸が起きないと短歌がつくれないんですね。私の場合は、ほとんどショートストーリーが先です。

岡本 ええ!? そうなんですね!

――加藤さんの作品は、暮らしの中から生まれてくるものなんですか。

加藤 私の場合、小説は実体験ではなく、ほぼ創作です。でも短歌って、不幸なものの方が書きやすいですよね。幸せなときって、短歌とかどうでもいいってなるでしょ(笑)。幸せなことって、たぶん言語が必要でなくなる。

――岡本さんの短歌は笑えるところも魅力だと思えたのですが、笑いというのは短歌のジャンルとしてどうですか。

加藤 難しいと思いますよ。短歌に限らず、たとえば漫才で、M‐1グランプリはすごく面白いけど、テキストで読んだら違うと思うんですよね。何が面白いんだろうって感じる部分だってきっとある。笑いって、間や言い方があってこそだと思うので。でも岡本さんのは、読んでちゃんと笑えるのがすごい。

岡本 芸人なので笑わせたいです(笑)。不幸なことをお伝えして、みんなでどんより不幸になるんじゃなくて、見返りに笑ってもらえたら、僕も笑顔をもらえます。でも、ほんとにありのまま書いているんです。みなさん、人の不幸がやっぱり好きなんですね(笑)。

加藤 そのままエピソードトークにも、ネタにもなりそうですよね。すごくリアルだと思ったのは〈歯磨きのリズムキモいと言われてる同棲3日目の夜のこと〉です。これは創作だったら出てこない。例えば小説で恋人の嫌なところを書くとして、いろいろ挙げていっても、私は歯磨きのリズムは思いつかない。これは岡本さんの洞察力、すくい上げる力の賜物だと思うんですよ。タイトルになっている〈全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割〉も、よくある情景だけど見逃してしまいそう。細かいところまで考えていらっしゃるから、歌になるんだって感銘を受けました。

岡本 嬉しくて困ります!

――基本的な質問をしますが、短歌ってどうやってつくるものなのですか。

加藤 人それぞれで、本当にやり方は違うんですけれど、私はけっこう五七五七七がそのまま浮かんでくるタイプです。あまり推敲もしなくて。もちろん最初はそんなことはなくて、「テトリス」に近い感じでやってました。語順を変えたりとか、違う言い表し方を探したりとか。やっているうちに馴染むようになって、最近は、出てきたそのままということが多いですね。

短歌のすごさは、三十一文字の前後を想像させる“余白”(岡本)

岡本 僕は、作文みたいにならないように、というのは考えてますね。エピソード色が強い短歌が多いので、あったことを書いちゃうと、なになにがなになにでこうでした、みたいになっちゃう。なるべく歌に聞こえてほしいと思ってます。文字数はいまだに指で数えてます(笑)。

 短歌のすごいところって、三十一文字あって、その前後を想像させるじゃないですか。余白を残すというか、考えてもらう隙間を残しておきたい。最近は、気持ちとかは書かない方がいいのかなと思ったりもします。こういうことがあった、と書いて、読んだ人が悲しいんだなとか怒ってるなとか、勝手に受け取ってくれるほうがいい。短歌を読む人って優しくて、めちゃくちゃ情報を拾って、いろいろ探ってくれるんですよ。だから、感想や感情はおまかせします! みたいな感じです。

加藤 私もそれは思いますね。小説って、例えば百人の読者の方がいたとして、全員が同じ解釈とは言わないですが、多くても十通りくらいではないかと思います。でも短歌は、百人いたら百通りの読み方がある。主体のイメージも違いますし、正反対の受け止め方をする人がいたりします。

――読む側からすると、これでいいのか、という不安もあったりするんですが……。

加藤 読み方が異なるのは、怖さでもあるけれど、短歌の良さでもあります。以前私が詠んだ〈投げつけたペットボトルが足元に転がっていてとてもかなしい〉という歌があって、喧嘩のシーンのつもりだったんですけど、ある方からは、環境破壊に対する提言ですねって言われて(笑)。びっくりしたけど、意図していないところまで届くっていいなって思ったんです。

 私は書いた時点で満足するので、そこから先はもう、自分のものでなくなっていいと思ってます。海にボトルレターを流すみたいなことかな。思いもよらない場所に届いたり届かなかったり。でも人それぞれなので。

(写真:iStock.com/ginosphotos)

*   *   *

新刊『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』に続き、
全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』が文庫に!
読めば読むほど、なぜか幸せな気持ちにしてくれる短歌&エッセイをお楽しみください。

 

関連書籍

岡本雄矢『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』

今日も世界の片隅で、ひとり膝を抱える僕とあなたのために。 不幸に愛された、トホホ名人……歌人芸人が身を切って綴る、“せつなさとおかしみ”、“短歌とエッセイ”のマリアージュ。

岡本雄矢『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』

昨日もトホホ、今日もトホホ。憂鬱だらけの毎日も、短歌に詠めば何かが変わる!「あの数ある自転車の中でただ1台倒れているのがそう僕のです」「さっきまで順調だったレジの列 急にもたつきだす僕の前」「ものすごい数のハトが集まっているおじさんに人は集まらない」他、105首の短歌とエッセイで綴る、ほろ苦さとおかしみに満ちた愛すべき日々。

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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)

著者は、主に”不幸短歌”を詠む「日本にただ1人(たぶん)の歌人芸人」。
よく失敗する、言いたいことが言えない、反論したくても返せない、なぜ自分だけこんな目に合うのかといつも思う、自分には劇的なことが起こってくれないと嘆いて生きている……。
そんな著者から見える”世界”を、フリースタイルな短歌(&ときどきエッセイ)にしてお届け。
もしあなたが自分のことを「不幸だ」と思っているなら、「もっと不幸な男」がここにいると思ってください。

バックナンバー

岡本雄矢 主に“トホホ短歌”を詠む「日本に(たぶん)ただ1人の歌人芸人」

詠み始めるとなんでも”トホホ短歌””不幸短歌”になってしまうという特徴を持つ、「日本にただ1人の歌人芸人」。1984年北海道生まれ。吉本興業所属。コンビ「スキンヘッドカメラ」で活動中。YouTubeで「芸人歌会」を開催。北海道新聞等で連載も。

短歌とエッセイを収録した初の著書『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』には、俵万智さん、穂村弘さん、板尾創路さんからアツい推薦文が寄せられた。

最新刊は『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』。

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