電車や喫茶店で近くの人の話を聞くのが好き(加藤)
加藤 創作のために動くかっていうことですね。さっきも言いましたけど、私は実体験をあんまり書いていないんですよ。初期の短歌は自分のことを書いていましたけど、最近はフィクションが多い。恋愛小説も創作です。
人の話を聞くのが好きなんです。作品では、友達から聞いた話の性別を反対にしたり、設定を思いっきり変えて、要素だけ残すとか、印象的なセリフだけ書くとか。そういうのが多いかな。電車とか喫茶店とかで近くにいる人の話を聞くのも、めっちゃ好きですね。ずっと聞いていたい(笑)。想像は思いっきりしています。たとえばどこか行った時に、ここで生まれ育ったらどんなんだっただろうとか考えます。京都で育ってたら高校時代は鴨川でデートしたんだろうか、とか。そういうのが好きなんですよ。
岡本 すごいですね。加藤さんって、めちゃくちゃたくさんお書きになっているじゃないですか。昔、中島みゆきさんが、ひとつの失恋で百曲つくるみたいなことをおっしゃってたんですけど、加藤さんもそれに近いものがあるのかも。
加藤 中島みゆきさんと比べられると話しにくいですけど(笑)、同じ体験を別の短編に分けて書いたりはしますね。
岡本 僕は一エピソードで一作品みたいなことになっちゃいます。いくつも作品は生み出せない。
加藤 小説にしても面白いかもしれないですよ!
岡本 ラジオを聴いていたら、人間は誰でも一作は小説を書けるみたいなことを誰かが言ってて、二十代の半ばにそれを聴いてから、いつかは書きたいと思ってはいます。でも、なにをどうしたらいいかわからない。加藤さんは、小説を書くきっかけとかあったんですか?
加藤 小学生の頃から、物語みたいなものは書いてたんですよ。読んでいた少女小説の影響で。でも、ちゃんと書き始めたのは、大人になって編集者の方からご依頼をいただいてからです。
岡本 僕は札幌で芸人をやっていて、ずっとその状況が変わってないんですよね。札幌以外で仕事したり、新たな出会いがあったり、環境が変われば、生まれるものも変わるだろうなと思うんですけど、なかなか踏み出せなくて。
加藤 芸人さんの世界って特殊ですから、岡本さんが普通だと思ってることもきっと普通じゃないので、そのまま書いても面白いと思いますよ。読んでみたいです。
岡本 ほんとですか? でも、なんか思っちゃうんですよ。僕はずっと変わらないんじゃないか、同じ球しか投げられないんじゃないかって……。
十五歳のときの自分が面白がってくれるかなって考える(加藤)
加藤『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』でも、笑えるものもあれば、グッとくるものもあるし、いろいろな受け止め方ができる方じゃないですか。
岡本 僕、ものをつくるときに、頭の中に誰かを座らせたりするんですよ。誰に喜んでもらいたいのか、のイメージといいますか。このエッセイに関しては、読者がわからないので、どうしたら担当のSさんが喜んでくれるかって考えてたんですけど、加藤さんもそういうことをしていますか?
加藤 こういうふうに言うとすごくカッコつけてるみたいで、嫌なんですけど、十五歳のときの自分が面白がってくれたらいいな、と思ってます。十四、五のときってすごく尖ってたから、その自分が読んでくれるなら、そんなに変なものじゃないはずだって。その自分から「つまんない」って馬鹿にされないものを書きたいと思ってます。でも読者を一人っていうのは、いいですね。たくさんでなくて一人の方がいいのかもしれないです。もちろんみんなに読んでもらいたいですけど、みんなって、どこにもいないので。
岡本 僕は編集者ってSさんしか知らないんですけど、めっちゃ褒めてくれるんですよ。人生でこんなに褒められたことないぐらい褒められる。毎回、「天才」って言われるんです。ほかの編集者さんと仕事させてもらう機会があるとして、ちょっとダメ出しされたら落ち込んじゃうかもしれない。
――さきほど少しお話に出ましたが、どうして幸せなことは短歌にしにくいのですか。
加藤 幸せなことって、漠然としているというか、テキストにした時に面白くないと思うんです。おいしかったとか、楽しかったとか。うまく説明できている自信がないですが、幸せな時は、読み手も短歌を求めてないんじゃないですかね。満たされてて、毎日なんにも困らない、楽しくてしょうがないっていう人は、本は読まなくてもいい(笑)。そういう時でも読みたいと思えるのはミステリーなどのエンタメで、短歌ではない気がします。週五で合コンして、めっちゃモテてるみたいな人は、短歌にふれる機会がないですよね、たぶん。枡野浩一さんの〈川柳と俳句と短歌の区別などつかない人がモテる人です〉っていう歌があって。ほんとそうだと思います。
ドヤ顔で不幸を探しに行ったら、失敗するような気がする(笑)(岡本)
S 担当としては、岡本さんには今後もぜひ不幸でいてもらいたいです。
岡本 いや、加藤さんに挙げていただいた「歯磨き」の歌じゃないですけど、どんなに幸せでもギャップはあって、不幸な瞬間というのはあるじゃないですか。僕は幸せになりたいです(笑)。
加藤 漫画家の伊藤理佐さんが、吉田戦車さんと結婚される時、これまで悲哀のある独身女性を漫画にしてきたから、結婚したら作品が書けなくなるんじゃないかとためらいがあったそうで、それを夫となる吉田さんに話したら「結婚しても幸せになれるとは限らないから」って言われたって(笑)。真理ですよね。本当に、結婚や子を持つイコール幸せじゃない。悩み事の種類が変わるだけで。でも不幸を探しにいくのも違う気がしますね。塩梅が難しい。(※AERA dot.参照)
岡本 そうですよね。ドヤ顔で不幸を探しに行ったら、失敗するような気がする(笑)。なるべく欲は出さないようにします。
――最後に、お二人のこれからの予定を教えていただけますか。
加藤 私は今年は婚活アプリをテーマにした連作小説集、来年ですが母と娘の長編小説を刊行予定です。あと、作詞の仕事がしたい! とアピールさせてください。子どもって、テレビで聴いただけの歌を歌ったりしますよね。私たち大人は、言葉を受け取ると意味を考えちゃうんですけど、子どもを見ていたら、純粋に音だけ、響きだけを聴いて真似するのってすごくいいなと思ったんです。短歌に通じるものがあると思えて、なので作詞により興味が向いています。メロディーに乗せて思いもよらないところに届くっていいなと思う。
岡本 ネタはどうですか。ネタ書くっていうのは? 絶対ネタを書けると思うんですよ。加藤さんは、絶対僕よりお笑いを見てますから(笑)。漫才とか書いたことはないんですか。
加藤 ないです。お笑いと漫画はリスペクトが強すぎて、凡人が足を踏み入れられるようなところではないと思ってます。あ、そうだ。スキンヘッドカメラの舞台をナマで見たいです。それも目標にします。
岡本 それはぜひ! 見てもらえるような“場所”までいきます! 僕は1冊目を出したばかりで、先のことを言うのもおこがましいんですが、幻冬plusさんで週に3回短歌を発表させてもらっているので、もし可能なら2冊目とかそれ以上も出してもらえるようになりたいです。それと本職……漫才の方で、加藤さんに見てもらえるところまで。はい。
加藤 私、見ても講評とかできないですよ(笑)。
岡本 いや、東京の人にも気軽に見てもらえるようなところまで行くってのは、ほんとに目標なんです!今日はありがとうございました。そして本当にすみませんでした!
加藤 ほんとに楽しかったです。ありがとうございました。
次のページ:対談を終えて~岡本雄矢の反省文~
* * *
新刊『センチメンタルに効くクスリ トホホは短歌で成仏させるの』に続き、
『全員がサラダバーに行ってる時に全部のカバン見てる役割』が文庫に!
読めば読むほど、なぜか幸せな気持ちにしてくれる短歌&エッセイをお楽しみください。
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僕の不幸を短歌にしてみました(エッセイつき)
著者は、主に”不幸短歌”を詠む「日本にただ1人(たぶん)の歌人芸人」。
よく失敗する、言いたいことが言えない、反論したくても返せない、なぜ自分だけこんな目に合うのかといつも思う、自分には劇的なことが起こってくれないと嘆いて生きている……。
そんな著者から見える”世界”を、フリースタイルな短歌(&ときどきエッセイ)にしてお届け。
もしあなたが自分のことを「不幸だ」と思っているなら、「もっと不幸な男」がここにいると思ってください。
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