ソマリアでの海賊対処行動に従事するジブチの自衛隊活動拠点に、墜落したCMF(有志連合海上部隊)連絡ヘリの捜索救助要請が入ったのはその日、六月二十一日の午後三時近い時刻であった。
墜落地点はアリ・サビエ州の南端で、活動拠点からは約七〇キロの距離だが、ジブチ、ソマリア、エチオピアの三国が間近に接する国境地帯である。墜落原因は不明。状況から整備不良によるエンジントラブルと推測された。
本来ならアメリカ海兵隊のTRAP(タクティカル・リカバリー・オブ・エアクラフト・アンド・パーソネル)が出動すべきところだが、折から米軍はイスラム武装勢力アル・シャバブ掃討作戦の真っ最中であり、加えて海上での海賊対処任務で予期せぬ事故が複数発生し、到底人員を割ける状況にないことから、自衛隊に話が回ってきたものであった。
こうした拠点外での活動は極めて異例であるが、各国の部隊指揮官との話し合いと調整の上、自衛隊は人道上の見地から捜索救助任務に当たることを決めた。
海上自衛隊とともに派遣海賊対処行動航空隊を構成する陸上自衛隊第1空挺団では、ただちに捜索救助隊を編成。乗員生存の可能性を考慮して時を措かずに出発した。七〇キロという比較的近い距離だが、状況によっては救助の難航も予想されるため、各種装備の他に念のため野営装備を用意しての行動である。
隊長に任命された吉松3尉以下、緊急救命陸曹一名を含む計十二名の警衛隊(活動拠点における陸上自衛隊の呼称)隊員は軽装甲機動車二台、高機動車一台に分乗し、急ぎ墜落地点を目指した。
ジブチにはソマリアの海賊に対処するための各国の基地が設けられている。日本の派遣部隊は米軍基地キャンプ・レモニエに〝間借り″する状態であったが、二〇一一年以降はジブチ空港北西地区に初の本格的海外基地となる『活動拠点』を設置した。〈アフリカの角〉と呼ばれるソマリア半島の中でも、アデン湾の西端に面するジブチ共和国は、海賊対策の拠点として絶好の位置にある。
盛大に砂埃を巻き上げて、緑のない〈アフリカの角〉の乾いた土漠を進んだ一行は、やがて巨大な奇岩の連なる岩稜地帯の基部に到達した。捜索目標の連絡ヘリはどうやらこの岩山のどこかに激突したらしい。持参したザイルやハーネスを駆使して岩壁に取り付いた隊員達は、間もなく岩の合間に挟まったシーホークの残骸を発見した。頂上部に激突の痕跡が残っていたため、発見はそう難しいものではなかった。しかし、急な角度のついた岩肌をバウンドしながら滑り落ちた機体は、狭い岩の合間に嵌まってほぼ垂直に落下し、宙吊りの状態で止まっていた。
梶谷士長の言った通り、遺体の回収は困難なものとなりそうだった。口にする者は誰もいないが、明日からの作業が思いやられた。
野営といってもテント等を設営するわけではない。簡易加熱剤で温めたレトルト飯を食べ、ペットボトルの水を飲んだりした後は、三台の車輛内での仮眠である。また一名は立哨、二名は海外派遣仕様の軽装甲機動車上部ハッチに搭載された5・56㎜機関銃MINIMIを構え警戒に当たる。