男性相手でも性的興奮を感じられるようになった
数日前、“私は中年童貞です。もし、よろしければ取材に協力させてください”というメールが来たことから始まっている。
“本当は女性に好かれたくて仕方がないのに、絶対にそれは叶わない。だから徹底的に逃げているのです。それが不可能になるように、自分の男性性を徹底的に壊して破壊して、潰して。本当は女性に受け入れてほしいのに、逃げるように男性同性愛者のフリして、既成事実を作るために男性とセックスしたり、ネットでゲイ動画を観たりして、男性を相手に性的興奮できるようになった。本当は女性と話したり、普通に結婚したりしたい。けど、絶対に受け入れてもらえないから、男性性を捨てる自傷行為として性同一性障害に逃げているんです。元々男らしさが無いことも含めて、性同一性障害は単なる言い訳です”
何度目かのメールで、そう言っている。
松野氏は女性にモテないことが原因となって、同性愛や性同一性障害に走っている。性同一性障害は生物学的性別と性の自己意識が一致しないという障害だが、異性にモテないという理由もあるのかと驚いてしまった。メールアドレスには生物学的に男性で性の自己意識が女性であることを示す“MtF”という記号を使っている。
休日ならばと取材を受け入れてくれて、なるべく人がいないところと、オフィス街のカラオケボックスを希望していた。松野氏は日曜日で閑散とした某オフィス街にカジュアル姿でやってきている。服装も小綺麗で、見た目は極めて一般的である。
「さっき出版社の女性の人を追い返しちゃったけど、それはただ自分が逃げているだけ。表向きは味方か中立的にいるように見えても、心の中では自分を評価してディスカウントしてるんじゃないかって怯える。本当は女性と普通に話してコミュニケーションをとりたいのに、できないから回避する。逃げる。女性とか社会に怯えてばかり。それで最近、社会から受け入られつつあるセクシュアルマイノリティを持ちだして、都合よくなんとなく生きている感じです。嘘ばかりなので、全然楽になれないですね。僕はたぶんゲイでもないし、バイでもないし、トランスジェンダーでもない。性同一性障害も偽物です。本当に性同一性障害なら、診断後にホルモン補充治療を受けますが、僕は躊躇ってやっていない。他の当事者は喜んでどんどん進んでいるのに」。
よく新宿のハッテン場に行くという。ハッテン場とは男性同性愛者の出会いの場で、新宿二丁目に大浴場があり、個室のあるビジネスホテルが有名なハッテン場となっている。行けば必ず誰かしら男性から誘われるようだ。
「男性としての自分を破壊しようって考えになって、一時期は女性になりたいと思ったこともあった。美容や全身脱毛やダイエットに時間もお金もつぎ込んだけど、肉体は成長しきっているし、整形しても骨格変わらないし、無理だった。だいぶ悩んで考えて、最終的に女性になりたいって願望は現実逃避って気づいた。単なる女性に受け入れられないから逃げて、性同一性障害という概念を利用したわけです。自分が女性だったら僕みたいな男は嫌で絶対に受け入れない。だからハッテン場に行って孤独感を埋めているんです。ハッテン場では誘われたら、外国人でも年配でも、ほとんど応じます。まず断ることはないです」
ハッテン場は入場料を支払って、ガウンとタオルもらう。風呂入ってガウン姿で、施設内を歩きながら男性を探す。誘いの合図は無言で触ることである。会話は必要ない。誘いに応じるのだったら相手の手を握る、体を触る。拒否だったら素通りする。カップルとなったら、ベッドインする。バニラセックスと呼ばれるキスやペッティングまで、当然最後のアナルSEXまでいくこともある。相手が射精したら営みは終了となる。
松野氏はこの数年、ハッテン場やセクシャル・マイノリティのサークルを居場所にしている。
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ルポ中年童貞
恋人のいない男性が増えている。それに伴い、性行為の経験のない、いわゆる「童貞」も急増中だ。「結婚と出産に関する全国調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、30~34歳未婚男性の26.1パーセントが童貞だという。この「中年童貞」とはいかなる存在なのか。