まさかの総選挙――7~9月期の実質GDP速報値の発表をきっかけに、突然吹き始めた「解散風」に慌てたニュースや新聞各紙。おそらく誰にとっても、消費税再増税の延期と解散総選挙は想定外のことだったに違いない。また、大方のエコノミストにとって「2期連続マイナス成長」という事態も、明らかに想定外だっただろう。
二つの想定外の直前、11月10日に刊行された『日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点』(幻冬舎)では、再増税を延期しないと日本経済は再び低迷してしまうことと、2014年度のマイナス成長もありうることが明確に指摘されていた。さらに必要とされる追加の金融緩和についても、10月末に発表された日銀の追加緩和とほぼ同じ規模で提案されている。
与党自民党は「争点はアベノミクス」と訴えるが、「いまの日本経済の現状をどう見たらいいのか」「そもそもアベノミクスとは何なのか」「各党が掲げる経済政策のどこに着目したらいいか分からない」という声は大きい。「大義なき」とも言われる総選挙を控えて、現在の日本経済と政局をどう見ればいいのか。著者、片岡剛士氏の冷静な分析から、現実解を探ってみたい。(聞き手 柳瀬徹)
■まさかの「マイナス成長」はなぜ起こったのか
――刊行直後の11月17日に発表された7~9月期の実質GDP速報値は、対前期比成長率0.4%、年率換算で-1.6%という衝撃的な数字でした。『日本経済はなぜ浮上しないのか』では「2014年度の実質GDP成長率はゼロ成長の可能性が高い」「在庫増の悪影響(…)を考慮に入れれば、マイナス成長も十分にありえる」と試算をもとに予想されていましたが、その悲観的な読みすらも下回る推計が出てしまいました。
そこからばたばたと政局が進行し、再増税の延期と、「アベノミクスの是非を問う」という触れ込みの解散総選挙が決まりました。初版の帯には「消費税増税でこの国は瓦解する。」とありますが、なんとか「瓦解」は回避できたと考えていいのでしょうか?
片岡 この本で詳細に分析していますが、まずは2013年からのアベノミクスによる好循環を整理してみましょう。アベノミクスの「三本の矢」は金融政策、財政政策、成長戦略なのですが、実体は一本の矢なんですよね。大胆な金融緩和の力によって、まだ十分とはいえないまでも、景気回復の糸口が見えてきたのが2013年の1年間でした。
回復の糸口を掴んだというだけですので、まだまだ国民全員の収入が上がるという段階ではありません。「私には恩恵が来ていない」「庶民には無関係だ」という批判はこれからもついて回るのでしょうが、データを見ている限りでは、所得階層の一番上と一番下の層には、着実に景気回復の恩恵が遡及していることをこの本でも指摘しています。その恩恵が今後、中間層に行き渡っていくかどうかが問われる、それが2014年の1年間だったのです。この流れのなかで気の早い方は、経常収支や貿易収支が赤字になっているのを見て、「円安で日本は貧しくなる」「日本の競争力が失われている」といった批判を強めていったわけですが、この本では貿易赤字と我々の豊かさとはまったく関係ないことも、国際収支統計の基礎から噛み砕いて解説しています。
安倍政権については、私には経済政策以外で支持できるところは多くありませんし、本では家計負担を軽減する政策の少なさや再分配の弱さも批判もしていますが、いま再び高まっているアベノミクス批判の大部分は、もともと安倍首相を嫌いな人が何でもかんでも批判しているように映ります。好循環に逆行するかのような流れが起こった分岐点は、今年4月の消費増税であることは各種のデータを見ても明らかです。増税に賛成していた方々は「増税による景気の落ち込みは大きくない」と言い続けていていましたが、増税反対派の私のような人間の予想さえも超えるレベルの悪化が起こってしまった。それが7~9月期の実質GDP速報値だったわけですね。