母と娘の“呪縛”と“依存”をサスペンスフルに描く、唯川恵さん待望の長篇小説『啼かない鳥は空に溺れる 』の刊行を記念した対談のお相手は、幻冬舎plusの連載「愛と子宮が混乱中」で母娘論を執筆中の、社会学者である鈴木涼美さん。
学生時代に唯川さんの恋愛小説にはまったという鈴木さん。唯川さんに「年を重ねるごとに、上手に恋愛できるようになっていきましたか?」と訊ねると、きっぱりとした返答が。
取材・文 須永貴子
撮影 有高唯之
●本当の母親のように接するなら、彼に試練を与えないと
鈴木 私にとって恋愛は、母には入ってきてほしくない聖域なんです。母親から「結婚しろ」ってけっこう露骨に言われるんですけど、母は結婚について語るふりをして、私の恋愛を邪魔してきた気がします。私が選ぶ男がことごこく気に入らないから、絶対に「(私の気に入る男と)」結婚しろ」って思ってる。私はお父さんのダメなところもすごい知ってるから、「あんたの男の趣味も大したことないじゃん」と思ってます。
唯川 お母さんの言うとおり、ひどい男を選んでしまったと思うことはない?
鈴木 ありますあります(笑)。私に刹那的に快楽を与えてくれるのは、あとで考えると「ひどいな」「くだらないな」と思う男ばかりだし。でもそこはお母さんには与えてもらえないわけだから、放っておいてほしい。
唯川 お母さんは多分、結婚すればあなたが新しいステージに立つと思ってるんだろうな。
鈴木 私、男の人に対しては、母親のような無償の愛を見せちゃうところがあって。無条件に自分のカードを全部見せちゃうし、やれることは最初から全部全力でやってあげちゃうんです。すると男の人は何もしてくれなくなっちゃう。さらには浮気をされたり、連絡がとれないまま放置されたりっていうことが毎回起こるんです。
唯川 自分からそう仕向けてしまっているよね。そうならないように我慢したり、自分を違うふうに見せたりしようとは思わない?
鈴木 男の人は女の冷血さ、残酷さ、腹黒さ、冷酷さを見てきただろうから、「私だけはどんなことがあってもあなたについていくから安心して」っていうアピールをしちゃうんです。
唯川「母親のような無償の愛情」って言ったけど、子どもに「そこに石ころがあるから危ないよ」と、石を拾ってあげたり、抱っこしたりして、転ばないように生きさせると、最終的に一番つらい思いをするのはその子本人なんだよね。もしも本当の母親のように接するならば、彼に試練を与えないと。
鈴木 そこに関しては純粋というか、男を育てるための駆け引きとかできないし、しちゃいけない気がしてます。
唯川 言葉って怖いなと思う。男の人にすべて与えてしまうことを「純粋」と形容することも、手の内をすべて見せてしまうことを「駆け引き」と表現することも、ちょっと違うような気がする。それを違う言葉に置き換えてみると、思考や行動が変わってくるかもしれない。恋愛や結婚において、希望や理想はある?
鈴木 自分が思う美しくてかっこいい女性像は仕事があって、尊敬しあえる男の人とパートナーシップを結んでいる人。だけど、私の仕事とかを理解してくれて、人として尊敬してくれる人のことを、私はなかなか好きになれないんです。好きな男と、好いてくる男が一致しない。自分が好きになってしまうのは、亭主関白タイプで、文化的でないところに生きている肉体労働や水商売系で、わかりやすく記号的な男らしさの塊の人。
唯川 身体ががっちりしているとか?
鈴木 ケンカが強いとか。「俺が守ってやるよ」みたいな。
唯川 守るどころか浮気するのに(笑)。
鈴木 確かに、けつをまくって逃げられ続けてる気がします(笑)。
唯川 「どうせすぐに次の男をつくって、同じことをするんだろうな」って男から思われてる気がするな。