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『啼かない鳥は空に溺れる』刊行記念対談  母と娘の確執、母に入ってほしくない聖域「恋愛」

2015.08.07 公開 ポスト

【後編】恋愛における「母親のような無償の愛情」について鈴木涼美/唯川恵(作家)

●男を見切ってからの人生のほうが自由で楽しい

唯川 うーん。あなたにとって普通の幸せって何? お母さんがロールモデルではないの?

鈴木 ある種の、ではあるかも。一人の男の人と35年間結婚生活を続けて、子どもを一人、一応立派に育ててるから。

唯川 立派に(笑)。鈴木さんはどちらかというと特殊な経歴が前面に出ていると思うし、それには私もびっくりするけれど、想像以上に若い。見た目も若いけど、精神的にも幼さがある。それはあなたのなかに、大人になりたくないという強い意志があるのかもしれないし、本当にドSなのかもしれない。まだ掴み取れないな。

鈴木 お母さんにも「あなたは17歳の頃と言ってることが同じよ」って言われます。ピーターパン症候群のきらいがあるのかも。大人になるのがすごく嫌で、永遠に女子高生のままでいたかったし。

唯川 女子高生の自分をピークだと思うと、女は年をとるとダメになると思い込みがちだけど、女の人は男を見切ってからの人生のほうが自由で楽しいから。いっぱい恋愛をしているうちに、あるとき「男がいなくても楽しい」という時期が来ると思う。そうなれば「男がいたらもっと楽しい」くらいのつきあいかたができるようになる。

鈴木 20代、30代、40代と、上手に恋愛できるようになっていきましたか?

唯川 まず、恋愛の条件は少なくなった。働いてお金を持つようになると、経済力を求めなくなるし、自分自身も少しは寛容になって包容力も出てくるから、相手に求めるものも少しずつ減っていく。今の鈴木さんは、実は相手に求めるものが一番多い時期なのに、相手に何も求めない。それは一番わがままな求め方かもしれないね。

鈴木 確かに。あれしてこれしてと求められるほうが、男の人は対応しやすいし楽なのかも。

唯川 鈴木さんみたいな全面降参みたいな恋愛をしている人を見るとハラハラしちゃう。リストカットしたり、はないよね?

鈴木 ないです。薬やアルコール依存もないです。でも、恋愛すると情緒不安定になってピーピー泣いたりはします。

唯川 自分の身体を傷つけないのは、安心。基本的に、自分のことが好きってことだから。

鈴木 痛いの嫌だし。

唯川 そのシンプルさはいいね(笑)。なんだかんだ言って、お母さんともすごく仲良しだと思うな。

鈴木 来年がひとつの節目だと思ってるんです。お母さんが私を産んだ年(33歳)になって、お母さんが私の倍の66歳になるので。お母さんよりは先に結婚すると思ってたんですけど、ちょっと無理そうです(笑)。
 

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鈴木涼美

1983年生まれ、東京都出身。慶應義塾大学卒。東京大学大学院修士課程修了。小説『ギフテッド』が第167回芥川賞候補、『グレイスレス』が第168回芥川賞候補。著書に『身体を売ったらサヨウナラ 夜のオネエサンの愛と幸福論』『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論』『おじさんメモリアル』『ニッポンのおじさん』『往復書簡 限界から始まる』(共著)『娼婦の本棚』『8cmヒールのニュースショー』『「AV女優」の社会学 増補新版』『浮き身』などがある。

唯川恵 作家

1955年金沢市生まれ。2002年『肩ごしの恋人』で第126回直木賞受賞。08年『愛に似たもの』で第21回柴田錬三郎賞受賞。『燃えつきるまで』『雨心中』『テティスの逆襲』『霧町ロマンティカ』『手のひらの砂漠』『逢魔』など著書多数。

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