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「日本一有名なニート」と「クマムシ博士」の、ニッチ的生き方のすすめ

2015.09.02 公開 ポスト

第3回

「ずっと寝てたい」と言ってもいい社会pha/堀川大樹

◆ニートは社会のフリーライダーか

pha  ところで、話は変わりますが、ニートは社会のフリーライダー(ただ乗り者)なのかどうかみたいなお話をされてましたよね、ブログで。

堀川 ああ、働いている人たちから集めた税金で作った公共システムを、消費税以外であまり税金を払っていないニートがタダで使うことについてですね。そこのところ、ご意見をうかがいたいですね。

pha  僕はやっぱりバランスで考えるほうなんです。基本的には、大多数の人は働いて、家族をつくってみたいなのがあって、それがないと社会が成り立たないとは思います。でも、それは7割ぐらいでいいんじゃないかと。もし10割になったら、それはそれで行き詰るというか、しんどくなるというか、逆に滅びる感じがして。もっとブラブラしてたいみたいな人も、世の中に3割ぐらいはいた方がいいと思ってるんです。それも多様性というか、棲み分けという感じで。僕はその3割の部分をやっていきたいと思っていて、両方あってバランスがとれるんじゃないかなと思ってます。

堀川 外国だと、本当にみんな働かなかったりしますもんね。

pha  イタリアとかそんな感じですか。

堀川 シチリアとか半分働いて、昼からダラダラしてたり。だから本当に気が楽だと思うんですよ。みんなニートみたいなものなんで、昼間っからずっとバイク乗り回してたりとか、特に若い男性とかは外の階段のあたりにたむろって一日中しゃべってたりとか。僕が朝出かけて、夕方帰ってきたら、まだしゃべってたりしてる。それが普通な状態なので。でもそうするとやっぱり、全然インフラが整わない場所もわりとある。便利ではないし、ゴミがずっと放置されたまんまとか。ポーランドに行ったときのことですが、ポーランド人の友人が工事中の道路を指して「あの道路、工事をしているだろう? みんなマトモに働かないから、いつまでたっても終わらないんだ」と言っていました。だから場所によるのかな。日本だとたぶん、そういう全然働かない人がいると多様性が保たれて、一種の救いみたいな感じになるのかもしれないですけどね。

pha  日本は窮屈な感じがあるから、バランスとりたいみたいなのがあるんですね。逆に7割がニートみたいになったら、「ちょっと働いた方がいいよ」とか僕も言うかもしれない(笑)。そういう少数派的なところに行くのが好きなのもかもしれないです。やっぱりバランスかな。一人の人間の中にだって働きたい7割と働かない3割が同居してたりもするし、時期によっては7年働いて3年働かないとかいうぐらいでもいいし。両方あっていいんですよね。とにかくバランスが大事なので、働いてる人には「もうちょっと休んだらいいよ」って言いたいし、ずっと引きこもってる人には「ちょっと働くのもいいんじゃない」って言いたいみたいな、そんな感じですね。

堀川 腑に落ちました。

pha  両方大事というか、両方合わせて社会というか世界というか。

堀川 僕はいますごく共感したんですけどね。僕も両方あっていいんだろうと思うんですけど、なかには不快感を示す人もいるんですよね。「ニートは公共の施設を使うな」みたいなことをネットで発言する人に対して、僕は違和感を覚えるけど、一体なんて言ったらいいのか分からなかったんです。でも、phaさんの話を聞いたら理解できました。

pha  ちなみに、使うなっていうのは、納税してないからっていうことですか?

堀川 そうですね。道路にしろ何にしろ、全部税金で整備されてるわけだから、健康なのに働かないのはどうなんだって話ですよね。まあ、税金をすごくたくさん払ってる人たちからすれば、それは不公平だって思うのも、それはそれで分かるんです。しかも、日本は税金が高いですから、富裕層がだんだんシンガポールとかに行ってるっていうのも分かるし。
 でもそうなってくると、さっきバランスっておっしゃってましたけど、本当に社会のバランスが悪くなるかもしれないなと。富裕層がどんどん逃げて行ったりとか、あるいは、いつか日本の中で富裕層だけの特区みたいなのができて、それ以外の場所はインフラが全然回らなくなるような状況が生まれたりとか。いまは想像できないけど、そんな風になったら、ちょっとはニートも頑張ろうかみたいになるんですかね。

pha 「道がガタガタだからちょっとそろそろ頑張って直そう」みたいな(笑)。でも、なんかシチリアみたいな場所もあってもいいかなって思いますけどね。

堀川 最近は若い人たちが本当に、お金に執着しなくなってきてるなっていう気はしますよね。我々の世代だとまだバリバリ稼いで、マイホーム持って、いい車買おうみたいな価値観の人が結構いたと思うけど、いまの若い人たちは全然違う。

pha  たしかにそうですね。

堀川 10代と20代の参加者が多く集まるニコニコ超会議に行くと、駐車場に並んでる車はシンプルで安いものばっかりです。いい車に価値を見出してないんですよね。楽しけりゃいいじゃんっていう、部活の延長線上みたいな感じで、踊ったり歌ったりコスプレしたりが大事。そういう人たちが増えてきてるんだなと思って。ネットがあればいくらでも時間をつぶせたりするし、いかに低代謝で楽しむかみたいな。

pha  確かにお金がなくてもやれることはいろいろあって、工夫しだいでいくらでも楽しめますからね。

関連書籍

pha『持たない幸福論 働きたくない、家族を作らない、お金に縛られない』

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pha

1978年生まれ。大阪府出身。京都大学卒業後、就職したものの働きたくなくて社内ニートになる。2007年に退職して上京。定職につかず「ニート」を名乗りつつ、ネットの仲間を集めてシェアハウスを作る。2019年にシェアハウスを解散して、一人暮らしに。著書は『持たない幸福論』『がんばらない練習』『どこでもいいからどこかへ行きたい』(いずれも幻冬舎)、『しないことリスト』(大和書房)、『人生の土台となる読書 』(ダイヤモンド社)など多数。現在は、文筆活動を行いながら、東京・高円寺の書店、蟹ブックスでスタッフとして勤務している。Xアカウント:@pha

 

堀川大樹

1978年生まれ。北海道大学大学院地球環境科学研究科博士課程修了。地球科学博士。NASA Ames Research center研究員、AXAポスドクフェロー、パリ第五大学および仏国立衛生医学研究所研究員を経て、慶應義塾大学SFC上席所員。著書に『クマムシ博士の「最強生物」学講座 私が愛した生きものたち』(新潮社)、『クマムシ研究日誌 地上最強生物に恋して』(東海大学出版部)がある。

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