エリートではなく、大衆でありたい
樋口 すごい味わい深くて読み終わるのがもったいないから、大事に大事に読もうとするんだけど、170ページからもう一気に加速ね。ラストまでノンストップで読んでしまいました。僕ははっきり言うと、青春モノって正直もう興味ないんですよ。だって、高校生の頃なんてもう前世に近いしね(笑)。あと、僕の中には乙女心みたいなものも別にない。少女漫画だって読もうと思わないしね。そんな僕をここまで感動させるんですよ、この作品は。うまさに満ちてるんですよ。でもね、うまさが見えないうまさなんだよね。
椰月 私、本当に何も考えないで書いてる(笑)。
樋口 ホントですか!
椰月 もちろん、作品のことを色々と考えはしますけど、樋口さんが分析してくれたようなことは考えてない。
樋口 椰月さんって、天才に見えない天才なんだよね。
椰月 天才じゃないよ(笑)。私が心がけているっていうか、いつも思っているのは、「常に大衆でありたい」っていうことなんです。中間地点にいつもいたいんです。本当の大衆の平均値でありたいし、実際そうだから、小説もそうやって書いていたい。
樋口 エリート主義に絡め取られたら終わりですもんね、はっきり言って。
椰月 でも、私はこういうふうにしか書けないっていうだけなんですよね。難しい言葉も知らないし、頭も悪いので(笑)。
樋口 何言ってんですか。頭悪い人が、十何冊も本を書けるわけないじゃないですか。
椰月 でも私、自分ができることは、他の人にもできる気がしちゃうんですよね。
樋口 いやいや、小説を十冊以上書ける人は稀ですよ。数万人にひとりのレベルでしょう。
それにしても、僕ばかり話して恐縮なんだけど……、タイトルがまた素晴らしいんですよ。『その青の、その先の、』ってね、「その青の、」で「、」を付けて、「その先の、」でまた「、」をつけている。これってさ、この本はこの一冊で終わるけど登場人物の人生はこの先も続いていくって、だから「、」なんだよって、僕は思ってるんですけど、どうでしょう。
椰月 そうそう、そのとおりなんです。書く前からこのタイトルはなんか頭にパーンと浮かんできて。
樋口 タイトルあったんだ、先に。
椰月 タイトルありきでした。いつも私はタイトルが全然決まらなくて、すごい悩むんですけど、今回だけは先にタイトルがあった。この「、」も含めて。
樋口 いや、もうね、僕は周りにも言ってるんだけども、直木賞をもらってほしいよ。素晴らしい小説であることに変わりはないんだけど、受賞することで未読の方に強くアピールできるわけだしね。
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