「倍々ゲーム」=「エクスポネンシャル」のとてつもないパワー
先ほど触れたブラックホールの「特異点」は、計算上、重力が無限大になるポイントのことでした。それと同様、こちらの「技術的特異点」も、あるものが無限大になると予測されています。それは、技術が進歩する速度です。しかもカーツワイルは、そのスピードが「倍々」のペースで加速すると考えました。
倍々のペースで物事が増えることの勢いは、手元にある紙を折ってみるだけで実感できます。試しに、そのへんにあるコピー用紙などを二つ折りにしてみてください。それをさらに二つ折りにし、また二つ折りに……とくり返した場合、何回まで折れるでしょうか。よほどの怪力の持ち主でも、8回が限界だと思います。厚さ0.1ミリメートルの紙が、その段階で辞書並みの厚さになっているからです。理論的には、51回折ると、その厚さは地球から太陽までの距離と同じになります。「倍々ペースの増加」には、とてつもないパワーが秘められているのです。
このような「倍々」の増え方をグラフに表すと、上の図表1のようになります。横軸が時間で、縦軸が増加の度合いです。一定のペースで増えていく右肩上がりの直線と比べて、カーブが途中から一気に急上昇し、短期間で爆発的に増えるのがわかります。数学では、このようなグラフを描く関数を「指数関数」といいます。
この指数関数のことを、英語では「exponential function」といいます。「エクスポネンシャル」も、社会の未来を語る上での重要ワードです。
カーツワイルは、人類のテクノロジー全体が、エクスポネンシャルに進化すると考えました。AIをはじめとするコンピュータ技術だけでなく、生命科学やナノテクノロジー、ロボット工学など、あらゆる分野の科学技術がエクスポネンシャルに進化した結果、それらの科学技術が自ら、自身より優れた科学技術をつくり出すポイントが訪れます。
そのときいったい、何が起こるのか。
あらためて、指数関数のグラフを見てみましょう。倍々ゲームで上昇が加速していくと、やがてその方向が横軸に対してほぼ垂直になることがわかるでしょう。それは、進化のスピードが「無限大」になるということです。そしてそのポイントは、それまでの進歩の継続性を断ち切るように、突然に起こります。そのポイントこそがカーツワイルのいう技術的特異点、シンギュラリティにほかなりません。
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シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?