これからの10年は、人類史上、前例のない激変期
これは、これまで人類が経験してきた時系列とは非連続の進化です。カーツワイル自身も、シンギュラリティのインパクトがどんなものになるのかは「予測できない」と告白しています。ただしカーツワイルは、それが「人間の能力が根底から覆り変容する」レベルの現象になると述べています。いわば、「人類が生物を超越するレベル」です。地球上の生物は40億年かけて進化してきましたが、シンギュラリティによって、その進化がこれまでの時系列から解き放たれ、無限に増殖を始める。人間のつくり出した科学技術が、人間の手を離れて自らより優れた科学技術をつくり出すようになる――。
カーツワイルの予測を懐疑的に見る人々もいます。とくにAIに精通した人ほど、その難しさを日常的に肌で感じているせいなのか、「そんなにうまくいくはずがない」と考える傾向が強いようです。
しかし、この時代に生きる私たちにとって大事なのは、シンギュラリティが起こるか否かではないと私は思います。進化スピードが無限大になる特異点が実現するかどうかはともかく、そこへ向かってテクノロジーがエクスポネンシャルに発展していくことは間違いありません。
というのも、エクスポネンシャルな進化を遂げるのは、人類のテクノロジーだけではないからです。カーツワイルによれば、そもそも生命進化のプロセスも、この倍々ゲームの法則で加速してきました。
2020年代にはコンピュータの集積度が人間の脳を超えることはほぼ間違いないであろうと予見されています。日本のスーパーコンピュータ開発の第一人者である齊藤元章氏は、
『エクサスケールの衝撃』(PHP研究所)という著書の中で、そのポイントのことを「プレ・シンギュラリティ(前特異点)」と呼んでいます。
2045年のシンギュラリティを待たずとも、確実に起こるであろうこのプレ・シンギュラリティは人類のあり方を大きく変えることになるでしょう。その意味では、シンギュラリティを「AIが人間の知能を超えるポイント」とする解釈も、そう大きく間違っているわけではありません。齊藤氏も、これから10~20年のうちに、過去の人類が何千年ものあいだに経験したよりも多くの歴史的変革が起きると語っています。
カーツワイルのいうとおり、シンギュラリティが「人間の能力が根底から覆り変容」し、「人類が生物を超越する」ようなレベルの大事件だとすれば、いま地球上で生きている私たちはもしかしたら「最後の現生人類」になるのかもしれません。そんなふうに思うと、私はこれから起こる変化に胸が躍るような気分になります。人類史上、こんなにエキサイティングな面白い時代はありません。
もちろん、そのような激変に不安を抱く人も多いでしょう。私の中にも、それがまったくないといったら、うそになります。企業でビジネスに取り組んでいる人、これから進路を決めようとしている若い世代、子供の教育に頭を悩ませている親世代など、どんな立場であっても、未来のあり方によって現在の生き方や物事の考え方は変わってきます。
プレ・シンギュラリティまで、あと十数年。本格的なシンギュラリティまでは、あと
約30年。次回では、人類史に前例のない加速度で起こるこの激変期、具体的にどんなことが起こるのか、私たちは何をどのように考え、どのように対応していけばよいかを、見ていくことにします。
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次回は6月13日(火)に掲載予定です。
さらに詳しくは、『シンギュラリティ・ビジネス――AI時代に勝ち残る企業と人の条件』をお読みいただけると幸いです。
シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?