「AI(人工知能)が人間の知性全体を大きく上回り、科学技術の進化の速度が無限大になること」シンギュラリティ。天才未来学者レイ・カーツワイルは、2045年にシンギュラリティが到来すると予言しています。シンギュラリティが本当に到来するのか、シンギュラリティ後の世界とはどんなものなのか、すべてわからないことばかり。
ですが、News Picks編集長・佐々木紀彦さんも「AI入門の決定版だ」とお薦めの『シンギュラリティ・ビジネス――AI時代に勝ち残る企業と人の条件』著者の齋藤和紀さんは、そんな時代に生きていることは、このうえなく面白く興奮する、と言います。
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「でもぼくは宿題をやります」
小学生の息子が、学校でこんな作文を書いたことがあります。
「未来の自分」
ぼくのおとうさんは、しょうらい人工知のうがすべての勉強をやってくれるから、人間は勉強をしなくてよくなるといいます。でも、いまはみんなが宿題をやっているのでぼくは宿題をやります。
もしかしたら担任の先生には、「父親のくせに何ということを……」と呆(あき)れられてしまったかもしれません。でも私としては思っていることを正直に伝えただけなので後悔も反省もありませんし、息子は息子で小学生のわりには立派な見識を持っていてくれて安心しました。「しょうらい」どうなるかということと、「いま」何をすべきかということは、まったく別の問題です。
私はこの本でも、将来の世界がどうなるかを示し、それに備えていまの私たちが何を考えるべきなのかを述べてきました。
私たち人類には解決すべき「宿題」がいくつもあります。解決した先にはユートピアが待っており、本当に人間が何もしなくてもよい社会になっているかもしれませんが、それを築くのは人間の努力と工夫にほかなりません。
とはいえ、「人工知能がすべてやってくれる社会」が人類にとって本当にユートピアといえるのかどうか、やはり疑問を抱く人は多いと思います。それが人間にとってのディストピアになるのだとしたら、そのための努力や工夫を重ねる気にはなれません。
カーツワイルの予言する2045年に本当にシンギュラリティが起きた場合、この世界がどんなものになるのかは、わからない。カーツワイル自身がそのように述べています。しかし、少なくともAIが人間を超えるプレ・シンギュラリティの到来は確実ですし、テクノロジーのエクスポネンシャルな進化が止まらないのも間違いないので、それを前提に生き方を考え直さなければいけないというのが、私のスタンスです。
逆にいうと、それを前提にしない努力や工夫は無駄になる可能性があります。世界は確実に大きな革命に見舞われるのに、いままでと同じスタイルを踏襲して、既得権を維持するための努力を続けても仕方がありません。将来の変化に備えるためには、目の前の利益を多少なりとも犠牲にせざるを得ないこともあります。
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シンギュラリティ・ビジネス
2020年代、AIは人間の知性を超え、2045年には、科学技術の進化の速度が無限大になる「シンギュラリティ」が到来する。そのとき、何が起きるのか? ビジネスのありかた、私たちの働き方はどう変わるのか?