2017年のノーベル物理学賞を受賞した「重力波の初観測」は、アメリカの重力波観測施設LIGO(ライゴ)の成果でした。
日本でもスーパーカミオカンデと同じ神岡鉱山の地下で、「KAGRA(かぐら)」という観測施設の建設が進んでいます。
『重力波とは何か――アインシュタインが奏でる宇宙からのメロディー』の著者であり、「KAGRA」を率いる東京大学宇宙線研究所教授・川村静児さんが、建設までのドラマと「KAGRA」への期待を語ります。
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競い合いながら国際協力する重力波観測の世界
LIGOの重力波初検出は見事に成功しました。しかし、それでこの実験が終わったわけではありません。この成功は、あくまでも「重力波天文学」の始まりです。しかもLIGOだけでは、この新しい天文学は成立しません。これも、ふつうの望遠鏡による天文学とは違う、重力波天文学の特徴です。
電磁波を見る望遠鏡と違い、重力波を聞く望遠鏡、すなわち重力波検出器はほとんどすべての方向から届く重力波を聞くことができます。ふつうの望遠鏡は特定の天体がある方向にレンズを向けなければそこで起きるイベントを観測できませんが、重力波検出器はその必要がありません。常に、全方向に耳を傾けている状態です。
これはふつうの望遠鏡にはないメリットともいえますが、そこにはデメリットもあります。重力波がたしかに「聞こえた」ことはわかるものの、それがどの方向から届いたのかが、1台の重力波検出器ではわからないのです。
たとえばLIGOはブラックホール連星で生じた重力波をキャッチしましたが、その重力波源がどこにあるのかを正確には特定できません。地球からの距離は約13億光年(40%程度の誤差があります)とわかっていますが、方向に関しては大マゼラン雲からさほど遠くない方向からやってきたことしかわかっていません。もちろんそれは画期的な大発見なのですが、天文学としては、それだけでは不十分だといわざるを得ません。
しかし、重力波源の方向を特定するのが不可能というわけではありません。ただしそのためには、地球上の離れた場所に少なくとも3つの重力波検出器が必要になります。同じ重力波を3カ所で受け止めれば、それぞれの時間差を計算することで、それがどちらから届いたのかがわかるのです。
ただし、3カ所では方向を決められないケースもないわけではありません。これまで、重力波検出器はほぼすべての方向からやってくる重力波に対して感度を持つといってきましたが、不得意な方向もないわけではありません。3台の検出器があったとしてもそのうちの1台にとって、ある重力波が不得意な方向からやってきたものだとすると、その検出器は信号をとらえることができません。したがってその重力波については実質的に2台の検出器しか存在しないことになってしまいます。これでは、方向を決めることができません。そこで4台目、5台目の装置が必要となってくるのです。
さらに検出器の稼働率の問題もあります。重力波検出器はスイッチを入れたからといってずーっと動き続けるようなものではありません。さまざまな外的要因により、動作を停止してしまうことがよくあります。そうなった場合は、再び動作状態にもっていかなければいけませんが、これには少し時間がかかります。また、装置を最高の状態に保つためには、定期的にさまざまな調整を行う必要があります。
これらを総合的に考えると、重力波検出器の稼働率はおよそ80パーセント程度と考えられています。もし装置が3台しかない場合、3台とも稼働する割合は80パーセントの3乗で51パーセントとなってしまいます。これでは、やってくる重力波のほぼ半分しか方向を決めることができません。では、もし装置が4台あったらどうでしょうか?
4台のうち少なくとも3台が稼働する割合は、82パーセントになり、大きく改善することができます。
ですから、重力波天文学を成り立たせるためには、地球上に同程度の感度を持つ重力波検出器を3つ以上つくらなければなりません。そして、その数は多ければ多いほど、重力波天文学としての質が高まっていきます。その観測データを総合的に分析することで、重力波源となった天体現象の詳細がわかります。
これを、どこか一国だけでやるのは、とても不可能です。複数の国の研究グループが協力し合わなければいけません。重力波天文学は、必然的に、国際的な共同研究になるのです。
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