フランス語の教師をはじめておよそ30年になる中条省平さん。フランス語に挫折してしまったあなたのために、「フランス語の大体が頭に入り、フランス語を恐れる気持ちが消える」ことを目指して書かれた『世界一簡単なフランス語の本』から、フランス語の「性」と冠詞についてのルールをご紹介します。
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最も分かりやすい男性名詞・女性名詞「男と女」「父と母」
まず、ショッキングな事実を確認しておきましょう。
フランス語の名詞には性別があって、男性名詞と女性名詞に分かれます。
もちろん、いつものように例外はあって、すでに知っている「子供」という意味の名詞 enfant(アンファン) は、「男の子」にも「女の子」にもなりますが、これはあくまでも珍しい例外です。
いちばん分かりやすい男性名詞と女性名詞を対比して例を挙げましょう。「男」と「女」。これはフランス語でいうと、
homme (オム)
femme (ファム)
おっと、発音の例外が出てきてしまいました。
homme のほうは問題ありません。h は発音しない。子音(m)が重なった場合は1音として読む。語尾の e は発音しない。基本的な原則で発音が決まっています。オム。
ところが、femme のほうは、子音(m)が重なったら1音で読み、語尾の e は読まないという原則はそのとおりなのですが、子音が重なったらそこで音節を分けるという規則に従って、fem-me と切れます。当然、音節の切れ目にない e は「エ」と発音するというのが原則です。つまり、綴りと発音の規則によれば、「フェム」となるはず。ところがそうはならないんですね。「ファム」と発音します。大きな例外です。
でも、femme は「ファム・ファタル(宿命の女、魔性の女、妖婦、悪女)」というカタカナ言葉となって日本語でも使われますから、「ファム」という発音にじつは日本人は慣れているのです。
そして、性別は、もちろんhomme(男)が男性名詞で、femme(女)が女性名詞。これはなんの問題もありません。
もうひとつ例を出しましょう。
père (ペル)
mère (メル)
意味は「父」と「母」です。
むかし、三好達治という詩人がこういう詩句を書きました。
海よ、僕らの使う文字では、お前の中に母がいる。そして母よ、仏蘭西(フランス)人の言葉では、あなたの中に海がある。(詩集『測量船』より「郷愁」)
これは、フランス語で、「母」が mère で、「海」が mer であることに着目した詩です。たしかに、「海」という文字のなかに「母」があるように(古い字体では、「海」の右下部分は「母」と書きます)、フランス語の mère(海)のなかには mer(母)が入っています。mer の語尾の r は、「第1章 フランス語は、読めれば、できる」で説明した「careful」の原則に従って発音するので、フランス語では、「母」と「海」はまったく同じ「メル」という音になります。それにしても、「母」と「海」の結びつきには、たんなる言葉をこえた本質的なものがありそうに思えてきます。フランス人と日本人、意外に親近性がありそうですね。
当然のことながら、père(父)は男性名詞で、mère(母)は女性名詞。これもなんの問題もありません。
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